Mon.
30
May,2016
石川 空海
投稿者:石川 空海
(コーダー)

2016年05月30日

駅から30秒、地下に広がる
おとなのための大衆居酒屋
〜よよぎあん〜

代々木散策マップ

石川 空海
投稿者:石川 空海(コーダー)

モノサスの就業時間は10時から19時と決まっているが、実際に帰る時間は人によって大きく差がある。
わき目もふらずパソコンをにらみ続けている人もいれば、涼しい顔をして定時に帰る人もいるし、ボヤキながら定時に帰る人や、颯爽と徹夜している人もいて、会社っておもしろいなあと毎日思う。

まあ19時にあがろうが、24時にあがろうが、ある一つの思いに変わりはない。

「ああ、ビールが飲みたい。」

少し蒸し暑い春の木曜日、19時15分に会社を出て代々木駅のすぐ横にある「よよぎあん」(以前紹介されたとんかつ屋さんはご兄弟が経営されている)に向かった。
格好のビール日和である。


疲れた夜にこの入り口を見たら飛び込んでしまう

コスプレをしてティッシュを配る女子大生を横目に、見ただけでほっとする温かい色目のライトが灯る入り口の階段を降り、「予約した石川です」と告げるとカウンターの奥に案内される。
きれいな茶色に経年変化した木製の床と什器。
お店の左側は座敷席が大きく面積を占め、右側にはL字のカウンター。
「老舗の居酒屋」といわれれば誰もが連想する雰囲気の店内は、休日前のような人だかりである。
スーツを丸めて横に置き、ビールと煙草を交互に味わう座敷席のサラリーマンの方々もいれば、すこし小奇麗な身なりをしてカウンターで日本酒を嗜むカップルもいて、それぞれがそれぞれの夜を満喫している。


代々木駅徒歩30秒の地下に広がる店内

席に着いて、筆で書かれたメニューを開く。
目につく文字はもちろんビール。
少し迷って瓶ビールを注文する。
普段は当然のように「生で」と注文するが、日本的雰囲気のある飲み屋に行くとつい、瓶ビールを注文したくなる。


この日のお通しは「ふろふき大根」

運ばれてきた瓶ビールとお通しが、木目調のカウンターによく似合う。
ああ、日本の絶景。
「仕事終わりの日本の絶景ベスト10」というランキングでは他の追随を許さず、圧倒的な1位。

コップに注がれた黄金色に輝く魔法の水をすすって、自分におつかれさまをしてから、もう一度メニューに目を通す。
ここでも、ある文字に目が釘付けになる。

「ポテトサラダ」。
テーブルでの立ち位置は脇役なのに、メニューでのインパクトは主役級なこの一品。
横には、「※季節によって内容が変わります」の文字が。
お店のこだわりと、自信。

今日はどんなポテトサラダか店員さんに聞きたい気持ちをぐっとこらえ、「ポテトサラダと厚揚げを」と一言。
こういうときは聞かずに待つ。
メニューでイメージする楽しさと、出てきたときの驚きこそが食というエンターテイメントの柱である。

2本目の瓶ビールがなくなりかけたころ、「お待たせしました!」の一声といっしょにポテトサラダがやってきた。
ひとまず3本目のビールを注文してから、ポテトサラダに向かい合う。


「ポテトサラダがおいしいお店は何を食べてもウマイのだ!」 by マッキー牧元 『ポテサラ酒場』 辰巳出版 2014年 刊

ガヤガヤとした店内、来たばかりで冷え冷えの瓶ビール。
空っぽになったグラスと疲労にまみれた僕の間に突如降り立つ代々木の天使。
僕が知っているどんなポテトサラダよりも艶やかな表面は箸を入れるのを躊躇するくらい、誇らしげに光を放っている。

心を鬼にして、すっと箸を入れ、口へ運ぶ。
「あー」
全身脱力、まさに天使的なやわらかい味わいが僕を迎えてからは、さっきまでの躊躇いはどこかへやら、無心で食べ続ける。

冬と夏をつなぐ、春という季節にぴったりの、玉子がふんだんに使われたやさしい味わい。
冬であれば、ホクホクとした湯気が上がる、マッシュポテトのようなポテトサラダを食べたいし、夏であれば、冷たいビールがすすむ、ピリッとした風味のポテトサラダを食べたい。
当たり前の話だが、ふつうの飲み屋さんではいつ行っても同じポテトサラダが出てくる。
でもこのお店は、季節によって、ポテトサラダの内容を変えてくれる。
しかも、気分にぴったりのポテトサラダ。
とても親切だ。

ありそうでない居酒屋さんだな、とふと思う。
さっぱりとした接客に、豊富なメニュー。
駅近で、大きすぎないけれどストレスを感じない程度に広い店内。
良心的な価格設定と丁寧な料理。
ありそうでないのだけれど、探すと必ず町に一軒はある居酒屋さん。

そんなことをぼんやりと考えながら、厚揚げを平らげ、追加で注文したカツオの刺身(これがまた旨い!)を平らげ、瓶ビールは空きに空いて、おすすめの地酒を挟んで、また瓶ビールを空けていた。終電の時間が近くなり(これじゃあ重めの残業をしたのと変わらない)、どきっとしながら、締めの「白湯うどん」を頼む。

「白湯うどん」

よよぎあんのコピーライターはどなたですか?
思わずそう前乗りになるほどのナイスネーミング。
ほどよく満たされつつあるお腹と、いい具合にアルコールが回った脳ミソを抱える僕を捉えた一品。


和柄のお椀に、白濁したスープがよく似合う

飛び込みたくなりますね。

とろみのある白湯スープと、細めの麺。
少量にもかかわらず、全体の色調を引き締める、ネギとゴマ。
味は想像よりも少しだけ濃い目で、緩みきっていた僕の心と身体が徐々にいつも通りに戻っていく。

大人の「締め」をさっとすまし、勘定を払い、すがすがしい気分で地上への階段を上る。

「明日もがんばろう」
そう心に誓い、店を出て電車に乗り込んだ僕が、山手線を2周していたのは楽しい夜の笑えないオチであった。


よよぎあん

東京都渋谷区代々木1-34-5 地下1F
TEL:03-3374-4024
18:00~23:00

この投稿を書いた人

石川 空海

石川 空海(いしかわ くう)コーダー

クリエイティブ部運用チーム所属。 プランニングからコーディングまで、 一気通貫でできるWebマスターを目指して日々精進しています。 ボーダーばかりの着道楽。 ビールとワインの酒道楽。 じゃっかん重めの活字中毒。 最近は植物にも手を出し始めました。 よろしくどうぞ。

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