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Jun,2018
ものさすサイト事務局
投稿者:ものさすサイト事務局

2018年06月08日

住むには最適。暮らすには不便?
周防大島での暮らし、ホントのところ 〜 interview 西村一樹さん(周防大島町役場)〜

めぐるモノサシ

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モノサスにとって5つ目の拠点となった周防大島サテライトオフィス。その開所永井の移住にも深くかかわり、役場の移住、定住担当として周防大島の町づくりに尽力する西村一樹さん。
前編では周防大島だけでなく、山口県に来てくれる人が増えるのもうれしいという西村さんの仕事の原動力に迫っていきました。
続く後編では、移住者である永井の目から見た島での暮らし、西村さんがイメージする周防大島の将来の姿など、誘われた人、誘った人だからこそ話せる移住、定住のリアルが見えてきました。
(インタビュー構成:佐口賢作)

西村一樹さんプロフィール
1974年山口県周防大島町生まれ。山口県周防大島町役場職員。1998年役場入庁。2014年から周防大島町の移住担当に配属され東京や大阪で開催される移住イベントに参加するとともに、周防大島町を訪れる移住希望者の相談業務を主な仕事のひとつとしている。周防大島は暮らすのに良いところ。心地よい不便さも良いところです!

「地方には働き口がない」って本当?
移住したからこそ見えてきたミスマッチ

永井
私が周防大島で暮らし始めてから感じている疑問を聞いてもいいですか?

西村
どうぞ、どうぞ。

永井
「地方には働き口がない」と言われていることが、すごく不思議で。わかりやすい例で言えば、周防大島にあるセブンイレブンは常にアルバイトを募集しているし、知り合いの薬局の人も「周防大島は本当に求人に応募がないから、他の地域よりも時給を上げているのに、それでもこない」って言っているんですよね。
移住者の目線で見ると、働き口はあるのに、地元の若い子たちが出て行くのは「仕事がないからだ」と言う人がいて。モノサスのサテライトオフィスが開所する時にも、「島の若者の働き口が……」と言って期待してくださる声もありました。
なんだかミスマッチがあるような気がするんですよね。  

西村
選択肢を増やしたいというのが、町の思いです。だけど、現状としては働く人不足でどこも取り合いみたいなかっこうになっています。それは東京も地方も同じで、「田舎に仕事がない」っていうのは、本当に嘘。働く人が足りないのが現状です。
特に土木建築、介護職、医療職、給食関係は圧倒的な人不足ですね。介護施設などの給食関係は作ってくれる人がおらんから、どんどん外注になっていると聞いています。
だけど、高校を卒業したばっかりの若い人らが選択肢の多い都市圏で働くことと比べたとき、どちらに魅力を感じるかというと……やっぱり永井さんの会社のような仕事を選ぶと思うんですよ。

永井
実際の IT の現場はかなり厳しいですよ。私も夜遅くまで会社に残っていて「何やってるんだろう」と思ったことは何度もあるし、9時~17時できっちり時間が見える仕事で、土日は畑をやってという暮らしの方が「人間的だな」なんて思うんですけどね。

西村
お互いにないものねだりなのかもしれないですね。

永井
そう考えると、学校を出たての地元の若者に働いてもらうよりも、東京や大阪で足りないものを感じている人たちに周防大島を知ってもらう方がいいかもしれないですね。

西村
そのためには発信する情報に魅力がいると思うんですよ。キラリと光るもの。都会の人がキラリと光るものに気づいて「周防大島のあそこが光ったから、あそこに行ってみようか」というきっかけになるものが。実際、移住や定住、サテライトオフィスの誘致に成功している自治体の中には、光るものを見せるスタイルができあがっていますから。
その点、周防大島にはまだその定まったものがない。それが逆におもしろみでもあるのかなと思っています。

永井
どこと比べても場所として負けている感じはないですよ。周防大島。

西村 
じゃあ、逆に聞いていいですか?

永井
はい。

西村
永井さんがこっちに帰ってきたのはなんで、ですか?

東京の暮らしと周防大島での暮らし
大切なのは、そこに何を求めるか

永井
都会に限界というか、20代、30代のときほどおもしろさを感じなくなったのは正直あるかもな。

西村
限界あるんですか? あんなに便利でも?

永井
便利さって都会も周防大島もそんなに変わらないですよ。

西村
えー。うちで「醤油がない」となったら、近くの店まで車で20分ですよ。

永井
買い置きしておけばいいじゃないですか(笑)。
美術館とかイベントとか、新宿や渋谷などの繁華街にひんぱんに出かける人なら違いがあるでしょうが、私にとっては、しいて言えば、Amazonが早ければ当日に着いていたのが、当日は確実に無理ってことくらいかな。でも、本当に当日必要なものなんてほとんどないし、周防大島で売っていない関東ならではの食品を Amazonで注文するくらいで、それは都会、田舎の便利さの差じゃなく、食生活の好みの問題だから。結局、インターネットと車があれば、東京にいるのと周防大島にいるのとで感じる便利さは変わらないですね。

西村
そうですか。

永井
だからなんでしょうね。私は、ちょっと違ったことをしてみたかったんでしょうね。自分なりに都会でやりたいと思っていたことはある程度やった感じがあって。だから、違うことをやりたい。例えば、釣った魚をどうさばくか。わからないから Googleで検索して、YouTubeを見ながらやってみたり、畑で野菜を育ててみたり……。そういうことが、おもしろいんですよね。


サテライトオフィス近くの畑
周防大島で採れる海の幸と山の幸。魚をさばくのは日常のことに

西村
今度、磯遊びもやってください。干潮のときに石をはぐったら、いろんな生き物がおりますから。

永井
この間、西村さんたちとニシを見ましたよね?

西村
サテライトオフィスで少し飲んで、「散歩行こうや」と海を覗いたら、ニシって巻き貝がうじゃうじゃおって。

永井
うまー、と。そんなのが本当に楽しくて。よく「2、3年で移住者は定住できるかどうかわかれる」と言われていて、まだ1年ちょっとの私が偉そうには言えないけど、無事に馴染めそうな気がしています。

西村 
自分は近い将来、移住、定住説明会を東京でやるとき、永井さんにゲストスピーカーに出てもらいたいと思っています。周防大島語ってください。

永井
いいですけど、私の語りは周防大島の良さも悪さも出せないなと思っていて。移住の良さを語る人はよく「田舎は人のつながりがいいですね」と言いますよね。でも、田舎にも優しい人も口うるさい人もいるし、それは都会でも同じ。
私はマンションで暮らしていたときも同世代別世代関わらず遊びに行ったりとか、そういう感じの関係はあったし、周防大島に来てからも違いをあんまり感じていないんですよ。便利不便もそうだし。取り立てて差がないんですよね。

西村
その永井さん的な視点で話してもらいたい。自分らはどうしても島人目線でしか物が言えん。でも、都会も知っちょり、田舎も知っちょる永井さんなら、違う目線があるのかのな、と。説明会に来るお客さんはそこを求めてきちょるから。

永井
1つ思うのは、都会で人間関係うまくいかなくて田舎に……みたいな発想はやめた方がいいかなと。そういう人はこっちでもうまくいかないと思うから。かといって、あんまり気負わずに来ていいのかなって気もしています。
 
西村
そうなんですよね。こうします、ああしますと移住計画をきっちり決めて、レールを敷いているタイプの人は予想外のことが起きたとき、あたふたするんかなと。気負わずに相談してもらえたら、伝えられることはたくさんあるので。
あと、移住者の方々だけのコミュニティが形成されるようなら、自分らのやりよる仕事の意味がないとも思っています。サテライトオフィスにしても、どっかの地域に団地を設けるようなやり方は、自分は個人的に反対なんです。
それよりも各集落にスポット的にこんな物件あります。オフィス10部屋は確保できますっていうのが提案できたら、地域とのつながりも深くなって、おもしろいんかのう、と思うんですよ。

周防大島を都会の人たちのオアシスに
交流の機会を増やすことで次の展開が見えてくる

永井
これからの周防大島はどうなっていく、もしくはどうしていきたいと考えています?

西村 
これ、むずかしい質問ですね。
広い意味での都会の人のオアシスになっていけたらと思っています。移住、定住はもちろんじゃけど、休息にくる、ホッとしにくるところでもええんかのう、と。

永井
都会の人のオアシス。それは地域住民にもプラスになります?

西村
単純なところでしゃべる機会が増えるってだけでもプラスだと思うんですよ。外の人と。立ち話でもありじゃけど、長いことおるんじゃったら「飲もうか」ともなるし、いろんな話ができるじゃないですか。
1泊2日で周防大島を知ってもらう「島時々半島ツアー」なんかでもそうなんですが、昼間じゃったら立ち話して、云々かんぬん話してその場で終わってしまいますけど、飲み会で腰を据えて飲み始めたら、本音が出てきて。「この人、信頼できるな」と思ったら、島の人からどんどん突っ込んでいく。そんな場面を何度も見ていますから、そういう出会いの場をもっと増やしていきたい。

永井
なるほど。

西村
私も定住担当として、こうやって永井さんたちに出会わせてもらって、本当に移住してきてくれた方もいますし、「移住はせんけど、今でも周防大島のファンです」と仰ってくれる方もいるので。
その人たちとのつながりは今も続いていますし、大切にしていきたい。また、そういった方々はこちらがぽっと質問を投げたとき、返してくれるんですよね。自分では行き詰まって、にっちもさっちもいかんことをぽっと投げると、「それはこうしたらええんじゃない?」と。知恵袋じゃないですけど。

永井
最初に話した働き口の問題については?

西村
地元の若い子たちに島の魅力を発見してもらうための試みは続けています。島の唯一の高校である周防大島高校には地域創生科という科があって、卒業後の進路は就職がメインの生徒さんたちは地域のために何ができるかをテーマに取り組んでいます。
その生徒たちとモノサスをはじめ、サテライトオフィスを構えてくれた会社さんとコラボして、仕事を作る、働く場を作ることができればいいな、と。そこで、働く人募集となったとき、若い子たちが残るだけでなく、外からも来てくれれば、流出人口も減っていきますから。新しい業種ができて、働く人が増え、その人が結婚して、また子供が生まれてってサイクル。これはめざしたいところですね。

永井
ちなみに、西村さんが1人の生活者として都会の人に周防大島の良さを伝えるときって、なんと言っているんですか?

西村
住むには最適。暮らすには不便。
環境的にはすごくいいんです。ただ、さっきの買い物問題じゃないですけど、便利ではない。だから、いい面と悪い面を伝えられるキャッチフレーズとして、そう言っています。例えば、私の住んでいる沖家室からおしゃれな服を買いに行こうと思ったら、広島まで行かんといけん。
不便ですけど、買い物をするという1つのイベントだと思えば楽しくなるし、そういった生活もありなんかな、と。

永井
「住むには最適」の方は?

西村
そりゃ、家を出て海まで10秒じゃし、車は来んし、パンツ一丁で涼んでも平気じゃし、のんびりしています。
緩やかな時間の流れは魅力じゃと思います。自分が好きなのは、防波堤の上に寝っ転がって、ぼけーっと。暑いときは涼みに行きますし、夜なんかは星がきれいで。都会と比べれば別世界。

永井
都会生まれ、都会育ち。そんなふうに田舎のふるさとがない都会の人の選択肢になっていったらいいですね。

西村 
周防大島を第二の故郷にしてもらって気に入ってくれれば家を購入とか、賃貸で住んでもらえればしめしめですし、そうじゃなくても年に1回遊びに来てくれて、宿泊施設にお金が落ちるっていうのもうれしいですし。
なんて言うんかな。広い意味でも周防大島の良さをうまく使っていきたいな。移住担当だから、なんでも移住につなげるのではなく、周防大島のファンになっていただければと思っています。

永井
最後に、モノサスって西村さんからはどういう会社に見えていますか?

西村
モノサスは……見えんです。会社の事業内容は聞いていますが、謎企業ですね。見えてこんけえ、魅力があるんかな。クライアントがおって、こなさんといけん仕事も多くあるでしょうし、人材の確保も大変でしょう。でも、そういった面があるにもかかわらず、この周防大島に来てくれたのはすごくありがたい。これで周防大島も次のステップを踏めると思いますし、重たい意味じゃなく、期待しています。

西村さんへ

ふだんは飲み友達として、一緒にへべれけになったり、バカ話ばっかりしている西村さん。

けれど、こうして、移住や周防大島への思いをいろいろお聞きして、やっぱり西村さんがいなかったら、私の移住も、そしてモノサスのサテライトオフィスも、今のようなかたちにはならなかったんだなあと、あらためて思い出しました。
西村さんが、この周防大島の定住促進班にいてくれるタイミングで移住できたことは、私にとって、とてもラッキーなことでした。

空き家バンクで適当な家をみつけられなかったとき、地元の自治会長さんにつないでいただいたり、そこから住む家を見つけることができたり。
同世代の人をそもそも見つけづらいこの地で、同世代のお友だちを紹介してくれたり。
仕事でやってくれているのか、お友だちとしてやってくれているのか、その境目はわかりませんが、とにかく私が今の周防大島での生活を楽しめているいろいろなことのきっかけは、西村さんがスタートになっていることがたくさんありました。

移住してきた者にとっては、実は、お店まで何分かかるか、とか、人口が何人いるのか、なんてことよりも、その土地が住みやすく、周りの人と馴染めて、楽しいと思って生活できるということが、いちばんの定住の条件なのではないでしょうか。
多分西村さんは、そうやって私以外の移住・定住者たちにも、移住前はもちろん、移住してからも、表から陰からのサポートをしてくれているのでしょう。

私の周防大島での生活がはじまって1年少々。
これから私は、「移住者」から「定住者」になり、そんなことも思われない「町民のひとり」になれるでしょうか?
私は、まずは定住者として、そして町民のひとりとして、自分自身が、ここ周防大島で居心地よく楽しく居続けらるようにしたいと思っています。そして、できれば、周りの人がちょっと楽しかったり、助かったり、大島にはなかったことに接して刺激になったり、そんなことのきっかけを小さく増やしていけるといいなと思っています。

西村さん、これからもよろしくお願いします!

おっと、真面目なお手紙になりすぎたかな?

西村さん、そろそろ暑くなってきたし、今年はバーベキューもやりましょうね!

                                        永井 智子

この投稿を書いた人

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ものさすサイト事務局(ものさすさいとじむきょく)

メンバーや関わる人たちといい血行をつくるには?いい仕事をしていくために、関係性を深めるには?を考えながら、モノサスの人や仕事を紹介しています。事務局メンバーはだいたい6人くらい。食べること好き多めです。

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