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28
Apr,2016
林 隆宏
投稿者:林 隆宏
(相談役)

2016年04月28日

Open[ Action ]- 前編 -
行動をひらくことで見える、企業の価値観

Open Marketing

林 隆宏
投稿者:林 隆宏(相談役)

みなさん、こんにちは。モノサス代表の林です。

前回は Open Marketing の中心にある考え方である
「ひらく」ということについてお話をさせていただきました。

今回はOpen Marketingという考え方を自社の中に取り入れるにあたって
まず最初にはじめていただきたい「Open Action = 行動をひらく」
についてお話をしたいと思います。

Open Marketingでは、最終的には会社のあり方、考え方が
会社の内外にシームレスに共有されることを目指していくのですが、
そこにたどり着くには、いくつかのプロセスを経る必要があります。
その最初のプロセスが、「自分たちの行動をひらく」ことであると考えています。
 

「行動をひらく」にたどりつくまで

「行動をひらく」ことが最初のステップであるという考え方にいたったのには、
実は私自身も長いプロセスを経てのことでした。

私は、コンサルタントとして企業のマーケティングプランを立てるにあたって
これまでに本当に多くの経営者や経営幹部の方から、会社の戦略や、ビジョン、
そしてそれを実行に移すための施策などについて直接ヒアリングをする機会がありました。

どの経営者の方の話も魅力的で、惹きこまれるような内容が多く、
マーケティングプランに落とし込むのはとてもやりがいがありました。
そして、それは多くの高い成果をもたらしました。
経営者の方にも喜んでいただき、問い合わせや、売上の増えた現場は活気づきました。

しかしそんな中、私はちょっとした違和感を抱えていました。
増えた問い合わせに現場が疲弊したり、稀にですが「期待したサービスと違う」と
満足されないお客様がいたのです。

当時の私にはその理由がわかりませんでした。
お客様が増え、業績も上がり、経営者の方も満足している。
にもかかわらず、拭い去れない違和感がずっとあったのです。

何年もかかったのちに、だんだんとその違和感の正体が見えてきました。


それは、ひとことでいうと、
「経営者が語ることと、現場で起こっていることのギャップ」です。

私は当時から、会社の考え方や、ビジョンを重視していて、
それをとても注意深くマーケティングプランに反映していました。
自身が起業してからは、自分自身も経営者であることも手伝って、
経営者や経営幹部が語ることへの理解度が非常に高かった面もあると思います。
そして、それを初めてその企業を知った人にわかりやすく伝えることに長けていました。

元々経営者は、とても魅力的なことを話しますし、そのうえで
それをさらにわかりやすく、そして脚色も交えながら伝えていくことで、
マーケティング施策としては成果を出すことができました。
しかし、それは現場とのギャップも生み出していたのです。

なぜなら、経営者にヒアリングをすると、彼らの多くはビジョンや戦略を
とても魅力的に語りますが、そのことは、いままさに現場で起きていることではありません。
どちらかというと、経営者は2、3年後に実現していたいことと、
いま現場でできていることを混同してしまっている
ケースが多いのです。

それには経営者の「できていてほしい」という願望や、
「できていて当然」という期待のようなものもあるのですが、
2、3年後に実現していたいというトーンではなく、いままさにそのことが
起きているかのように話してしまうのです。

その結果、経営者のビジョンが反映されたマーケティングプランや施策は
顧客の事前期待を大きく高め、マーケティング的な成功をもたらします。
また、それは顧客の期待だけではなく、現場にも影響をもたらします。
経営者のビジョンや戦略を反映したマーケティング施策が様々な媒体を通して
多くのひとたちに届けられ、それを見てやってきた見込み客は当然その内容を
期待してくるわけですから、自分たちもそれをやらざるを得ません。
しかし、それは経営者が語る理想であり、現場がいま、できること、やっていること
ではありません。
こうして、期待したものと、受け取るものにギャップが生み出されてしまうのです。

つまり、経営者がビジョンと言っているものの多くは、将来実現したいことであり、
いま、じぶんたちが提供できるものではないのです。

わかりやすく明確なビジョンや戦略は、社員にとっては
どちらに行けばよいのかがわかりやすく、メリットも大きいのですが、
顧客にとっては、いまだ提供されていないものを期待させてしまう側面を持ち、
危険な面も持ち合わせていたのです。
そして、それを実現しなければならない現場にしわよせがいっていることも
あわせて理解する必要があります。


経営者と現場のギャップを埋めるために。

このギャップをできる限り抑えながらも、効果的なマーケティングを行うために
私たちがはじめたのは、現場で起こっていることをつぶさに明らかにすることでした。
事前に期待したものと、提供したものに差があることが問題になっているわけですから、
いま提供できることしか表現しなければ問題は起こり得ないはずです。

ところが、すべての現場に外部である我々が立ち会うことは不可能です。
それに、我々が見にいくことは少なからず現場に影響を与えてしまい、
普段通りの行動はとってくれません。

そこで取り組んだのは、行動の起こし手ではなく、受けとり手に
実際に起きた出来事を聞くことでした。
つまり、その企業のサービスや商品を利用している顧客に
具体的な出来事をインタビューしていくことにしたのです。

こういった手法はグループインタビューや、ユーザーインタビューとして
広く用いられている手法ですが、我々が重視したのはインタビューをする際に
その個人の感想を聞くのではなく、実際にその方自身が体験した
「出来事」という事実をできる限りたくさん集めることでした。

出来事とはひるがえると、それを起こしたサービス提供者側がいるわけです。
つまり、行動があるということ。
私たちはその行動と、その行動をとった理由に注目をしたのです。

具体的には、インタビューした結果を、その会社の様々な部署の方々と
一緒に読みあわせながら、その出来事が起きた裏にある行動がなんだったのか、
そしてその行動をなぜとったのかをつぶさに聞いていきました。
 

会社の価値観は行動の中に落ちている。

このワークショップをやったことで、非常に多くの発見がありました。
その中でも最も重要なポイントをまとめると、以下の3点に集約されます。

  1. 企業の中でとられている行動には、たとえ小さなことでも規則性があること
  2. 行動の規則性をひもとくと、その会社の考え方の基礎にある価値観が見えてくること
  3. 顧客はそれらの行動から敏感に企業の価値観を観察し、判断していること

今回はこの中の 1 と 2 について詳しく説明したいと思います。

1. 企業の中でとられている行動には、たとえ小さなことでも規則性がある

文字にすると当たり前すぎて、読み流してしまいそうですが、
実はほとんどの方が気づいていながら、その重要性を見過ごしているのでは
ないかと思います。
企業の中にいるひとびとが起こす行動には良くも悪くも規則性があります。
なぜなら、その組織の中で、良いとされている行動、悪いとされている行動が
あるからです。

身近な例でいえば、遅刻が許される会社、許されない会社。
挨拶をする会社、しない会社。タバコが吸える会社、吸えない会社。
私語をしてもよい会社、してはいけない会社といったことです。

これらの行動に対して明確なルールがある場合もありますが、
全てが細かくルールで規定されているケースはあまりないのではないでしょうか。
(なかには喫煙禁止!みたいな企業もありますが)

これと同じく、サービスを提供する際や、業務を遂行する際の行動にも
規則性はあらわれてきます。

もちろん会社のマニュアルや教育で明確に規定されているケースもありますが、
さきほどの例と同じく、言語化されずに非言語で会社内で共有されているものの
割合の方が多いのです。

2. 行動の規則性をひもとくと、その会社の考え方の基礎にある価値観が見えてくる

この行動の規則性をつぶさに見ていくと、またあることに気づきました。
それは、数ある行動の規則がなにかひとつの方針のような一貫性を持っていることでした。
そのことに気づいた私たちは、その行動の数々を「なぜ行動したのか」という観点で
行動を起こしている本人たちに、行動を起こした理由を聞いていったのです。

すると、その行動の裏には、その会社が大切にしている、一貫性を持った
価値観が隠れていたのです。
会社の人格や人間性と言い換えてもいいかもしれません。

このことは、みなさんも自分自身のことに置き換えて考えてみると
理解しやすいと思います。

例えば、あなたの周りの人に、私がインタビューをし
あなたがとった行動を具体的にいくつも聞き出します。
そして、そのエピソードをあなたと一緒に見ながら、私はあなたがなぜ
そのような行動をとったのかを聞いていきます。
そうすると、そこには一貫したルールが見えてきます。
それは、あなたの価値観であり、それが反映された人格、人間性なのです。

これは企業でもほぼ同じことが言えます。
企業と個人では事情が異なる点はもちろんありますが、
多くの企業では、同じことが言えるのではないかと考えています。
企業と個人で同じことが言える理由については機会があればまた詳しく
書いてみたいと思います。

ここで重要なのは、企業が自分たちの行動をひもとくことで、
自分たち自身の真の価値観に気が付けることです。
これは後から考えれば当たり前のことのようですが、
私たち自身もなかなか気づけなかったことでした。

ワークショップの中で、出来事の原因となった行動と、その理由をつぶさに見ていくと
その会社の価値観が徐々にあぶり出されていきます。
そうすると、とつぜん経営者の方が話し始めることがあります。
「私がやりたかったことは、こういうことだ。これを実現するために会社をはじめたんだ」

何社もの企業でこのワークショップを実施してきた中で、私たちが確信をしたのは、
ほとんどの企業において、経営者の価値観というのはすでに会社の現場に
反映されているのです。
しかし、それは経営者が語るビジョンによってではありませんでした。

その正体は、経営者が普段とっている行動そのものでした。
経営者が何を褒めるのか、何に怒るのか、どんな発言をするのか。
その繰り返しによって会社の中に価値観はすこしずつ、しかし確実に
浸透していっているのです。
つまり、企業の行動を支配しているのは、経営者の価値観なのです。

しかし、経営者自身が、その価値観を言語化できていることはごく稀です。
だからこそ、自分自身の価値観なのに、ワークショップの中でそれが
言語化されていくと、経営者は興奮し、いてもたってもいられなくて
「これが私がやりかったことだ」と言い始めるのです。

行動をひらくことで、その企業の、その企業の経営者の価値観が
Openになっていくのです。


長くなりましたので、今日はここまでにしたいと思います。
次回は、今日お伝えしきれなかった
3. 顧客は行動をとおして敏感に企業の価値観を観察し、判断している
という点を中心に、お話したいと思います。

ではまた次回お会いしましょう。

 

この投稿を書いた人

林 隆宏

林 隆宏(はやし たかひろ)相談役

長野在住で、東京、徳島、ときどきタイを行き来する生活。好きなことは木と歌と料理と宴会。木を使ったDIYが好きすぎて、ついには木材の販売事業を立ち上げてしまった。

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