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Aug,2016
石川 空海
投稿者:石川 空海
(コーダー)

2016年08月01日

赤提灯的中華料理屋のすすめ
「中華風レストラン 山水楼」

代々木散策マップ

石川 空海
投稿者:石川 空海(コーダー)

「代々木散策マップ、次のお店はどうしようか?」
「ギョーザにビール、したいです。」

お昼には攻撃的な太陽光が街中を照らしつけていた、7月のある真夏日。
時刻は20時とちょっと過ぎ。
ブラウスから白い肌を出して家路を急ぐ通行人を傍目に、頭の中は餃子でいっぱいだった。
ビール片手に、餃子をパクリ。

そんな妄想を何度も繰り返しながら代々木駅に向かうと右手に見えてくる赤い看板。
「中華風レストラン 山水楼」


代々木駅北口を降りてすぐの赤い照明が目印

お酒を飲むのにぴったりな中華料理屋は案外少ない。
安くておいしいチェーンの中華料理屋から、フルコースで食べる前からお腹いっぱいみたいな中華料理屋まで、星の数ほど店はあるけれど、メニューのサイズ感とプライスのバランス、そしてなにより酒場的空気をかもす中華料理屋が少ない。

お昼に無性に中華が食べたくなるときがある。
そういうときは食堂的空気の中華料理屋がグッド。
そして、世の中のニーズの問題なのか、こっちの中華料理屋のほうが圧倒的に多い。

「いやいや、酒を飲める中華は結構いっぱいあると思うよ」
そんな反論が聞こえてくるが、それは退廃的空気感を酒場的空気感と勘違いしているか、もしくは本当に恵まれているかのどちらかだと思う。

どんな中華料理屋で食べる中華もそれなりに美味しいけれど、お昼の中華が合う店もあれば、夜の中華が合う店もあるし、深夜や早朝の中華が似合う店だってある。
そして夜にぴったりの中華料理屋はエンターテイメントの香りがするのだ。


左右対称の外観と仰々しいライトの絶妙なバランス感

前置きが長くなったが、代々木の老舗中華料理屋「山水楼」はまさに“飲み”にぴったりな中華料理屋なのである。

山水楼の餃子は大きい。
近頃は、「なにこれ駄菓子ですか」みたいな小振りの餃子に出会うことも少なくないが、ここは餃子らしい餃子が供される。

大抵の退廃的空気感を醸すお店の餃子は駄菓子である。
「飲むのなら駄菓子みたいな餃子のほうがいいじゃん」
いいえ、違います。

餃子は夜の中華料理屋のシンボルといっても過言ではない。
昼休みにランチと称して惰性でお店を選ぶのと対照的に、夜の外食には必ず高揚感がある。
そしてその高揚感の裏には必ずイメージが伴っている。

ギュウギュウに詰まった餡に、それを包む厚めの白い皮。
油をひいた中華なべの上にきれいに整列させられて、上から熱湯をかけられた暁には、しゅうしゅうと音を出しながら、それを待つ人々のもとへと届く。

そんなイメージを持って、夜の中華料理屋のドアを開けるのだから、その餃子が駄菓子でいいわけがない。

夜の中華料理屋の餃子は餃子らしい餃子がいい。
そして餃子らしい餃子とは、最後の一個まで餃子らしいのである。


たったひとつお皿に残された餃子の愛おしい哀愁たるや

続いては、夜の中華料理屋圧倒的王者、
“麻婆豆腐”

熱々で、味付けは濃い目。
そんな食べ物をつまみに1杯。
中華料理屋で酔っ払う贅沢はここに集約されると言っても過言ではなくて、だから中華料理屋で飲むときは白いご飯を頼まずに、あくまでも中華料理屋的おかずで突っ走る。

5分と待たないうちに運ばれてくる、スピーディなオペレーション。
対面し、銀色のスプーンを右手に持つ。
蒸し暑い日が続き、疲れが残る身体に染渡る辛味と旨味。
平皿に零れ落ちそうに盛られたそれを、もくもくと平らげる。

ああ、ご飯を!
そう思いながらも、渇く身体はビールを求め、グラスに手を伸ばす。

こんなアンビバレントな思いをさせてくれるのが、夜の中華の醍醐味である。


食品サンプルのサンプルになり得る完璧な盛り付け

ここまで進んで、行く末は2つある。
チャーハン、ラーメン、やきそば、おこげなど錚々たるメンバーが名を連ねる煌びやかな締めの方向性。
もしくは、杏仁豆腐という穏やかな締めの方向性である。

麻婆豆腐と杏仁豆腐を繰り返すことに、同語反復の居心地の悪さを感じながらも、暴力的な夏に襲われる自分を救うのは彼女しかいないと、杏仁豆腐を注文。

餃子と麻婆豆腐、そして多量の瓶ビールを摂取して真っ赤な僕の前に出てきた真っ白な杏仁豆腐。
ちょっと一日の余韻に浸らせてくれる、懐かしさが漂う面構え。
たった一つだけ淋しげに乗ったチェリーにそそられる。


なんとも涼しげ、なんとも素朴。夏の締めはこうでなくちゃいけません。

さっぱりとした味付けの杏仁豆腐で身体を冷まして、今日一日の反省会。
ぼーっといろんなことを考えながら、周りを見る。

お客さんのほとんどが第一ボタンをはずしたサラリーマンの方々。
その合間を縫ってジョッキを片手に、快活な女子会が開かれている。
のどの渇きを潤おした後の言葉選びは冴え渡っているようで、片方が話せば片方が顔を手で覆い、片方がモノマネをはじめると片方はお酒で赤くなった顔をさらに真っ赤にして笑っている。
正面奥の調理場では、力強く揺れる中華なべに合わせて、炎は勢いよく燃え上がりつづける。

店内を上機嫌で闊歩するおかみさんに声をかけ、お会計。

代々木駅前、「山水楼」。
昼のおすすめは、かに玉です。


中華風レストラン 山水楼

〒151-0053
東京都渋谷区代々木1-33-4
tel 03-3379-3282

この投稿を書いた人

石川 空海

石川 空海(いしかわ くう)コーダー

クリエイティブ部運用チーム所属。 プランニングからコーディングまで、 一気通貫でできるWebマスターを目指して日々精進しています。 ボーダーばかりの着道楽。 ビールとワインの酒道楽。 じゃっかん重めの活字中毒。 最近は植物にも手を出し始めました。 よろしくどうぞ。

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