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Aug,2016
ものさすサイト事務局
投稿者:ものさすサイト事務局

2016年08月19日

多くの人は仕事を自分で選んでいると思っている。でも、僕は仕事って、仕事から選ばれるものだと思っている。
interview 坂口修一郎さん - 後編 -

めぐるモノサシ

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坂口修一郎さんをインタビューした「めぐモノサシ」の後編。
前編では坂口さんとモノサスのつながりである「OK PROJECT」について詳しく聞いてきました。
後編では、トライ&エラーの末にたどり着いたワーク・ライフ・バランスの垣根のないマーブル状の仕事のスタイル。大切にしている隣人“GOOD NEIGHBORS”という考え方。そして、故郷・鹿児島で行っている野外イベント「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE」について、より深くうかがっていきます。

(インタビュー構成:佐口賢作)


坂口修一郎さんプロフィール

BAGN Inc.代表1971年鹿児島生まれ。
1993年無国籍楽団 Double Famous を結成。2010年より故郷の鹿児島で野外イベント GOOD NEIGHBORS JAMBOREE を主宰している。また、ランドスケーププロダクツに参加し、同社内にディレクションカンパニーBAGN Inc.を共同設立。ジャンルを越えた各種イベントのプロデュースも多数手がける。
 

音楽や仕事より、旅のできる生活が先にあって。
何かに導かれて、道ができていく感覚。

坂口さんの自由なあり方を伺うほど、一般的な肩書きではくくれないと感じます。

「肩書きを聞かれるのが、一番困るんだよね。よく取材を受けて書かれるのは、ミュージシャン/プロデューサー。でも、プロデューサーってなんかあやしいし、本当は言いたくないんだけど、他になんて言っていいかよくわからないから。いつも、どうすればいいのかなと思っている」

前編でも紹介したとおり、坂口さんの仕事のスタイルは独特で、一般的な肩書きで言い表せない範囲に広がっています。

「例えば、ワーク・ライフ・バランスで言うワークとライフのバランスもないし、すべてがマーブル状に一体になっている感じ。あるときは音楽をやるから、一応ミュージシャンだろうし、あるときは裏方であり、プロデューサーでもあるし」

これは目指して作り上げたスタイルなのでしょうか。

「トライ&エラーを繰り返し、結果としてそうなったんだけど、そんな感じになるといいなという漠然としたイメージは持っていた。キャリアのスタートはミュージシャンで。学生のときに音楽にすごくハマり、景気もまだ少し良かったから、自分がお金を全然持っていなくても、あちこちツアーに行けたり、旅ができた。

それがわかってきて、これはおいしいな。もっと一生懸命やろう、と。1カ所にずっといるのが苦手な自分が、音楽をやっていればあちこち行けることが大きかった。動機はすごく不純。でも、そうだったからこそ、だんだん旅ができてあちこち行けるなら、音楽じゃなくてもいいってことも考え始めたんだよね。
ミュージシャンの旅ってけっこう貧しくて。行って演奏して、次に移動だから、その町のことを知る時間もないし、年間何十カ所ツアーするミュージシャンなんて、自分がどこに行って、そこがどんな町だったかなんて、ほとんど覚えていない。

これはなんか違うなと思って。音楽で行くのもいいんだけど、それだけじゃないもったいない。もっと楽しくやりたいと思うなかで、イベントの企画やプロデュースをするようになっていった。だから、音楽よりも仕事よりも旅のできる生活が先にある。順番が逆なんだよね」

先にワークがあったわけではなく、自分に合ったライフを探っているうち、それがワークになっていったのです。

「百姓みたいなものだよね。百姓って、百の姓って書くでしょう。農業もやるし、農機具を自分で作るし、他のこともやって、お祭りでは太鼓を叩き、笛を吹き、となんでもやってしまう。
つまり、生活と仕事が一体化しているわけ。今の自分はそういうものに近いんだと思う。よく肩書きは? 何をしている人ですか? と聞かれ、説明には悩むけど、自分の中ではまったく違和感がない。晴れた日は畑を耕し、お祭りになれば笛を吹き、みたいな暮らし方と同じなんだ」

そんなふうに生きる坂口さんは、独特の仕事観を持っていました。

「職業選択の自由という言い方があるせいで、多くの人は仕事を自分で選んでいると思っている。“自分で選んでこの仕事をしている”と。でも、僕は仕事って、仕事から選ばれるものだと思っている。

仮に自分で選んだ仕事がぴったり来ている人は、その仕事からも選ばれたラッキーな人。それは相思相愛の幸せなケース。僕もそうだったけど、自分で選んだつもりがうまくいかなくて会社を辞める人もいるじゃない。それは仕事から選ばれなかったということ。でも、落ち込む必要はなくて、どんどん次に移っていけばいい。そのうち仕事から選ばれる日がくるから。

僕が基本的にきたオファーを断らないのは、オファーがきた時点で仕事から選ばれかけているということだから。できるかぎりのことを打ち返して、うまくいけば相思相愛で仕事になる。もちろん、うまくいかない場合もあるけどね。
それもまたトライ&エラーだし、そうやって選ばれていくうち、何かに導かれて道ができていく、と。そういう感覚かな」
 

みんなが同じように楽しく思ってくれたら、
それが広がって最終的には町全体が楽しくなる

「不思議と言えば、不思議な感覚だけど、自分の生き方というのはあらかじめ決まっている。どっかでそう思っているところがあって、自分でゴリゴリと道を作っていくよりも、役割に忠実に逆らわずやっていく。若いころ、もっと自分はこうなりたいって流れに逆らっていたときは、けっこう大変で、苦しかったから。その点、今は非常にラク」

流れに逆らわず自然体だったからこそ生まれたのが、故郷・鹿児島を舞台にした野外イベント「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE」でした。


GOOD NEIGHBORS JAMBOREE 2015 かわなべ森の学校の大きな楠の前にて。音楽、クラフト、アート、食、文学、映画、などなど、ジャンルをこえて行われるたくさんのプログラムは大人も子どももさまざまな形で参加できる。

「7年前に『GOOD NEIGHBORS JAMBOREE』の前身となるフェスティバルをやろうとした時も、最初は東京でやろうかなとも思ったんだよね。
でも、東京でやるというのは、わざわざ渋滞の中に突っ込んでいくようなもの。すでに死ぬほどイベントがあって、毎日がお祭りのような町で、これ以上増やしてどうする?という。

そのとき、ふと鹿児島でやればいいんじゃないかなって。渋滞にスポーツカーで突っ込んでいくより、空いている道を自転車で行った方が気持ちいいし、目的地にも早く着く。たぶん、こっちが自分の選ばれている道なんだなって思ったりして。それに逆らわず、自分の地元である鹿児島にも帰りたいと思ったから、ちょうどいい用事を作ったとも言える。

でね、用事に関しては、面倒くさければ面倒くさいほどいい。そうすると、自力では絶対にできないことが出てくるから。人にお願いせざるえないし、お願いすると責任が生じるでしょう。そうすると、自分もやらなくちゃいけないし……ってサイクルが回転し始めるから。そして、大変であれば大変であるほど、仕事になる可能性も高くなっていくんだよね」


アーティストによるライブの様子(GOOD NEIGHBORS JAMBOREE 2015)

最初にイメージしたのは、「音楽もあって、モノ作りしている人もいて、ご飯を作れる人もいて、みんなが自分のスキルを持ち寄るフェスティバル」だったそうです。

「普通のフェスは音楽を楽しみに行くもので、だいたいミュージシャンが一番上にいて、会場で腹の減った人のためにフードのブースがあってと、縦の構造がある。でも。カレーフェスみたいなご飯のフェスティバルもあるわけで。本来はそれぞれがコンテンツとして成り立ち、上か下かはない。だから、全部が並列のフェスティバルをやりたい、と。
それを岡本さん(岡本仁さん。『relax』の編集長を勤め、2009年にランドスケーププロダクツに入社)に話したところ、『それはGood Neighbors のお祭りということでいいんじゃない?』と言われ、『GOOD NEIGHBORS JAMBOREE』となった」

2009年に始まり、今年で7年目を迎える「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE」。20名のボランティアの実行委員で企画運営され、会場は車でしかアクセスできない山の中にもかかわらず、回を重ねるごとに来場者数、満足度ともに上昇しています。

「最初から何万人も集めるようなフェスティバルにしようとは思っていない。経験上2000人が限界かなと思っていて、それ以上にすると直接顔が見える相手じゃなくなっちゃうんだよね。

今も当日、会場で会えない人がいるから。これ以上、大きくなると大味になるし、あれしちゃダメ、これしちゃダメという禁止事項もいっぱい作らなくちゃいけない。できるだけそれをしたくないんだよね。
そもそもJAMBOREEに関しては、利益が目的ではないから。じゃあ、何のために始めて、なんで続けているのかというと、自分の選んだ町が楽しくなってほしいからやっているんだよね。それも最初から町おこしをしようと思ったわけじゃなく、自分が地元で盛り上がりたいから始めたこと。
そして、自分が盛り上がるためには、周りの友だち、隣人たちも盛り上がっていてくれないといけない。みんなが同じように楽しく思ってくれたら、それが広がって最終的には町全体がおもしろくなる。
そうやって活気づいている町に帰っていくことが、自分にとって楽しいことだから」


今年(2016年)GOOD NEIGHBORS JAMBOREE 前夜祭。坂口さんが地元の若手ミュージシャンと結成したBBQバンドの演奏で盛り上がった。
 

一方がもたれかかる関係だと厳しい
自分が良き隣人にならなければ、他人にも良くしてもらえない。

坂口さんのマーブル状のスタイルを作る上で、欠かせないのが、「友だち、仲間、隣人」という言葉で表される、つながった人たちの存在があります。
一緒に仕事をし、でも業務上のつながりだけでもなく、ともに遊び、楽しむ。坂口さんが周囲の人たちと作っている関係性は魅力的で、でもどうすればそんなつながりが生まれるのか不思議です。

「さっきマーブル状と言ったように、自分にはオンとオフがないから、ビジネスパートナーと友だちの境界線もないんだよね。もちろん、仕事を通して出会う人のなかにはビジネスライクな付き合いを求める人もいる。だけど、僕はビジネス、ビジネスした関係だけで終わるのはあまり楽しくないと思っているから。できるだけ境界線を越えていこうとしてしまう。間口は広く、敷居は低くというのを大事にしている」

では、「友だち、仲間、隣人」には違いがあるのでしょうか。

「ニアリーイコールなんじゃないかな。ただ、やっぱりもたれかかる関係だと厳しいから。個人個人は自立して、僕は僕で立っていて、と。その関係性が基本。そのイメージに一番近いのは、隣人なんだよね。

例えば、ビジネスで関わる人たちはクライアントどうのこうので、上下の位置取りになっちゃうじゃない。たしかに、僕はクライアントからお金をもらうかもしれないけど、彼が持っていないものを提供している。だからお金がもらえるわけで、上下の縦並びではなく、横並び。隣人にも縦関係はないじゃない。隣人は隣の人だから、横並び。そういうフラットな関係が持てる人。それが隣人だし、その中で趣味が合う人とかが友だちになるし。縦の関係性しか築けない人は、あまり残らないかな。

ただ、BAGN Incの元になっている『Be a Good Neighbors』は僕の言葉じゃなくて、一緒にやっている岡本さんが見つけてきてくれた言葉。日本だとレストランとかで『近隣のご迷惑になるので騒がないでください』と禁止事項を書くけど、アメリカでは『Be a Good Neighbors』『Respect your Neighbors』と道端に書いてあったりする。

この考え方がおもしろいなと。騒いだらうるさい。迷惑をかけないようにしろというのが日本のやり方で、騒いでいて騒音に感じている人も、もしかしたら呼んできて一緒に何かをやればもううるさいとか思わなくなるかもしれないという解の出し方もある。

家は選べるけど、隣人は選べない。自分が良き隣人にならなければ、他人にも良くしてもらえない。だから、良き隣人になろう、と」

モノサスにとって坂口さんは間違いなく、良き隣人です。逆に坂口さんから見て、モノサスは良き隣人になれているのでしょうか。

「大きいところから小さいところまで、いろんな会社の人と付き合うから。集団には、集団の性格があるよね。そういうところで言うと、モノサスは友だちになりやすそうな感じ。

Webの制作会社という会社のドメインはあるけど、そういうものを意識せずに付き合えるというか。自分も何をやっているかわからないけど、モノサスも何をやっているのかわからないし、何をやっているかわからないけど、そばにいると楽しい人っているじゃない。そんな感じの人たちの集まったところかな」

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モノサス創立11周年記念パーティー(2015年11月)にお越しいただいた坂口さん。
 

インタビューを終えて

モノサスが「ともに生きていきたい人」と感じる人とゆっくりお話してみたい。そんな想いから始まったのが、この「めぐるモノサシ」です。
今回、坂口さんが語ってくださった生き方、「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE」のあり方、そして「隣人」の捉え方は、まさに代表の林が言う「ともに生きていきたい人と働く」というイメージと根っこの部分で重なり合うと感じました。めぐるモノサシは、どんなモノサシをめぐっていくのか。改めてその起点を確認させていただく幸せな時間となりました。

最後に、坂口さんにインタビューした上村からのメッセージで締めくくりたいと思います。

坂口さんは「かっこいい」。ただイケメンというわけではなく(そういう意味でも素敵なのですが)、温厚で、気さくで、柔軟で、時にズバッと確信を突く鋭さを持ちながら、でもいつも楽しそうで…とにかく仕事ぶりが「かっこいい」のです。

そんな坂口さんのことを説明するときにいつも困るのが、職業。「Double Famous の〜」「BAGN 代表の〜」「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE 主宰の〜」色んな枕詞をもつ坂口さんは、人によって「ああ、知ってる!」と言われる顔も様々。

私が初めてお会いしたのは去年の5月。イノベーション東北が開催した「ローカルとかかわる新しい働き方」というイベントのモデレーターとしてお越しいただきました。その時のチームメンバーが「本当に素敵な人」「怒ったところを見たことがない」とまるで神様のように語っていたことを覚えています。

それから1年ほど経った6月、熊本大分地震支援のために坂口さんが立ち上げた OK PROJECT とイノベーション東北が「熊本大分オープンミーティング」というイベントを共同開催することになり、初めてきちんと一緒にお仕事をさせていただきました。

色んな会社から集まった関係者&有志が、本業の隙間を縫って夜な夜な坂口さんのオフィスに集合。深夜0時近くまで「あれやろう!これもやろう!」とご飯も食べずに膝を突き合わせ、ひたすら作業していました。メンバー全員が坂口さんの熱意に揺り動かされ、喜んで巻き込まれ、ワクワクしながら進む日々でした。

坂口さんのことを知れば知るほど、「職業:坂口修一郎」としか言い表せない、唯一無二の人だなぁと改めて実感しています。
スゴイけど、スゴぶらない坂口さんと一緒にお仕事できる幸せを噛みしめつつ、これからも色んなことに巻き込んでいただけるよう、精進してゆきます(笑)

(プロデュース部・上村奈央)

GOOD NEIGHBORS JAMBOREE 2016
日程:8 月 20 日(土)
時間:11:00〜21:00
場所:かわなべ森の学校 (鹿児島県南九州市川辺町本別府3728−2)
料金:前売り入場チケット:¥5,000/当日入場チケット:¥6,000(小学生以下無料/ワークショップ参加費別途)
参加アーティスト: UA / otto&orabu(しょうぶ学園) / The Pints / THE ACOUSTICS / monoclaft / kokomoonpelli / Robin Dupuy GOOD NEIGHBOR DJs / 青柳拓次:サークルボイス / GOOD NEIGHBORS MARCHING BAND
HP:http://goodneighborsjamboree.com/2016/

 

この投稿を書いた人

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ものさすサイト事務局(ものさすさいとじむきょく)

メンバーや関わる人たちといい血行をつくるには?いい仕事をしていくために、関係性を深めるには?を考えながら、モノサスの人や仕事を紹介しています。事務局メンバーはだいたい6人くらい。食べること好き多めです。

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