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Apr,2025
杉本 恭子
投稿者:杉本 恭子
(ライター)

2025年04月08日

家に帰るのと同じくらい居心地のいい会社だった。勤続12年でモノサスを卒業した、本部・大久保千賀子さん

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杉本 恭子
投稿者:杉本 恭子(ライター)

12年にわたり、"モノサスのお母さん"としてメンバーに頼られ、慕われてきた本部の大久保千賀子さん。2012年の入社当時、保育園に通っていたお子さんはすでに高校生になられたそうです。

「親たちは歳を取るし、子どもたちは巣立っていく。この数年は、家族の大事な瞬間を見ないといけないんじゃない?って思いはじめて」。

でも、モノサスは自由で楽しくて、何よりメンバーのみんなが好き。仕事にのめりこんでしまう自分と、家族にとって唯一無二の存在である自分の間で葛藤を繰り返したのち、昨年末にモノサスを卒業しました。今は外部パートナーとしてモノサスを見守ってくれています。

大久保さんの退職は、彼女自身だけでなくモノサスにとっても大きな節目です。どんなことを思いながらモノサスで仕事をしていたのかーー。ものさすサイト事務局の山田真綺さん、中嶋希実さんも同席して、一緒に大久保さんの話を聞かせてもらいました。

今は、朝から充実したごはんをつくっているよ!

杉本 会社を辞めてから、どんな生活を送っているんですか?

大久保 次男がね、サッカーをやっていて。体を大きくするには、一食ずつの量を多くしないといけないから、朝ごはんから大事なわけよ。だけど、会社にいた頃の私は疲れ切っていて、朝食をつくってあげられなかったのね。だから今は、毎日は出来てないけど結構朝食はバランスを考えたりもしてがんばっています。「母ちゃん、会社を辞めたら朝から充実したごはんになんの?」ってすごく期待されてたから(笑)。

杉本 ご家族との時間も変わってきていますか。

大久保 家にいる時間が長くなったからけっこうしゃべるかな。ずっと夜ごはんをつくってくれていたお義母さんに、「会社を辞めたから、週2回くらい夜ごはん私が作ります!」って、週2なところがアレなんだけど(笑)。そしたら「私から仕事をとったらボケちゃうから、ちーちゃんは無理しなくていいの」って言うから、「いいんですか?」って甘えちゃって。夜ごはんはまだあんまりデビューしてない。まだ1、2回かな!

杉本 以前は、自分の時間もなかなか取れていなかったと思うんですけど。

大久保 そうなの!ほんとにね。子どもたちの部活があるから、土日も朝5時とか6時に起きてお弁当をつくって送り出していたし、目覚ましをかけないで寝たことが本当になくて。そういう意味でゆーーーくり休みたいって気持ちもあったかな。

とはいえ、本部には1ヶ月、数ヶ月、年単位のルーチンの仕事があるからね。私の次に本部歴が長いのが入社してまる1年のもちお(望月千里さん)だし、見守りみたいなことをしてほしいと言われています。あと、去年1年間やっていたマイプロジェクト「結ぶ会」は引き続きやってほしいと頼まれています。

「ちょっとだけ」という選択肢はなかった

杉本 「結ぶ会」の話はあとでじっくり聞かせてもらうとして。あらためて、モノサスを卒業した理由を聞いてもいいですか。

女性がにこやかに話をしている様子

大久保 家族に対する時間が取れなくなっちゃったっていうのがあるかな。一昨年の11月に私の母が亡くなり、今は水戸に90歳近い父がひとりで住んでいて。2ヶ月に1回の通院の付き添いと、月1回の帰省はさせてもらっていたけど、忙しいから実家でもずっと仕事をしちゃっていたのね。本当は父にいろいろしてあげたいけどできてないなぁと思いながら何年か過ごしていて、やっぱり楽しいしね、モノサスは。

お義母さんも毎日ごはんをつくってくれているけど、だんだん歳をとって疲れてきているなあと感じていたし、もしも万が一お義母さんに何かあったら、私はきっと後悔しかしないと思って。私は無理をしない人だから、やってくれるならいいやってお義母さんに甘えてきたからね。子どもに対しても時間を使えていないのはいいのかなぁと思いながら。

上の子はもう大学生だし、下の子は今度高校生になって、あと数年で巣立っていく。ここはちゃんと見ないといけないんじゃない?って思っていた数年があったんだよね。仕事は私じゃなくても回るけど、家族の大事な瞬間みたいなものにもうちょっとていねいに向き合わなきゃいけないんじゃないかなって。それで、母が亡くなった翌年明けに、「一年以内で退職したい」って柵山さんに相談したの。

杉本 退職すると決めてからの1年というのも、なかなか......。

大久保 そう。寂しい気持ちもあったし、「どうにかできないかな」って何回かは思ったんだけど。でも、いるとね、仕事しちゃうんだよね、とめどなく。「あれをしたらいいんじゃない」「これをしたらいいんじゃない」って思うと、つい時間を費やしてしまう。柵山さんは、アルバイトや時短勤務でもいいと、いろんな提案をしてくれたけど。たぶん私、会社にいると気になっていろいろやっちゃうから、同じことになるんじゃないかなと思ったっていう感じかな。

メンバーのために「いい会社」に変えたい

杉本 大久保さんは入社時はアルバイトで、最初はチェックチーム(品質管理部)にいて、コールセンターのお仕事もされていたそうですね。

大久保 そうそう。2016年にコールセンターがなくなったとき、「電話取れないんなら辞めよう」と思っていたら「本部に来ない?」って言われて。その頃にはもう、私はこの会社の人たちが好きになっていたし、「この人たちのために、モノサスをいい会社に変えたい」って気持ちがあったんだよね。下の子も小学生になっていたし「残業もできますよ」って言ったら、契約社員にならないかというお話をいただいて。じゃあ、腰を据えてお手伝いできればと、その後すぐに正社員になりました。

杉本 会社に深く関わるようになったのはいつ頃からですか?

大久保 2019年に逗子で「今後のモノサスを考えよう」みたいな合宿があったとき、林さん(前社長)が私のことも誘ってくれたんですよ。呼ばれたのは昔からいる役職者ばかりだったから、「あれ、私はもしかしてそんな感じで期待してもらっているの? 子どももいるし、おばちゃんだしな」と思いながらも、誘ってくれたのはすごくうれしかった。それならもっとがんばろうかなと思ったのがきっかけかな。本部ユニットのUL(ユニットリーダー)になろうとも思ったしね。もしかしたら、会社を良くしていくところに参加したいって思ったのかもしれない。

杉本 その後、会社の制度としてUL/BO(ビジネスオーナー)制度がはじまって、会社に対する経営・運営への参加度が高くなったと思います。

大久保 当時は、部ごとに採用をしていて、部長さんが自分たちで媒体を探して面接、採用をしていたのね。でもUL制度がはじまるなら、採用は本部ユニットでまとめられるといいよねって。会社を良くするために、採用はすごく大事だからそこに携わりたいって言いました。そしたら、今いるメンバーが働きやすさや居心地の良さを感じてもらう手助けをする、人事プロジェクトにも誘ってもらいました。

4人でサップのオールを持つポーズをしている 周防大島での社員旅行にて、SUPを楽しんだメンバーと一緒に

我が子みたいに思えるメンバーが増える

杉本 在職中につくってよかったと思っている制度について聞いてもいいですか。

大久保 フォローアップ面談かな。コロナ禍のときに、入社した人たちがリモートで働いていると離職率が高くなったり、会社への愛着が育まれなかったりすると良くないという危機感があって。他社さんの制度も参考にしながら、モノサスの制度としてつくっていきました。私と宮川さんで手分けして面談していたんだけど、業務上の上下関係ではない斜めの関係にあるからこそ、上長には話しにくいことも相談してもらったりすることがありました。

杉本 面談で聞いた内容は、あとで上長に報告する?

大久保 もちろん話さないで欲しいと言うことがあれば本人の意思を尊重しますが、それ以外は基本的には上長に伝えます。上長に伝えたいことを聞いたときには、コミュニケーションがうまくいくように橋渡しみたいなこともしました。だんだん「フォローアップ面談のときに聞いてもらおう」ってなるのもよかったし、迷ったり悩んだりしたときは、面談以外でも声をかけてもらえるようになったのもよかったかな。(山田)真綺もそうだったけど。

山田 いっぱい面談してもらってほんとに心強かった。大久保さんがいるかいないかで全然違います(涙)。

大久保 おー、よしよし!

女性2人が笑いながら話す様子 ものさす運動会の主要メンバーとして活躍する山田真綺

杉本 採用面接をしているから、モノサスに来て最初に会うのは大久保さん。その後も、話を聞いてもらうから「お母さん」という感じがより強くなったのかもしれませんね。

大久保 ひよこは孵化してすぐに見たものを親だと思い込んじゃうアレ、刷り込みだっけ?それと同じものを感じる。最初のオンライン面接のときに緊張してた子が、もうこんなに成長して!みたいな(笑)。採用やフォローアップ面談をするようになって、親心が植え付けられていったというか。

杉本 それにともなってお仕事の量も増えていって。

大久保 そうだね。フォローアップ面談や研修は、一度だけでは意味がないから、定期的にやり続けないといけないし。社食研も立ち上がって会社のメンバーもどんどん増えていったし、実質的な業務量は多くなっていったと思う。

社内の関係性を編み直す「結ぶ会」

杉本 大久保さんといえば運動会リーダーでもありましたね。「会社を楽しくしたい」みたいな感じもあったのでしょうか。

拳を突き上げて喜びを爆発させる女性 運動会を謳歌する大久保さん

大久保 そんなおこがましいことは思ったことないんだけど(笑)。運動が好きだから、自分が運動会をやりたくて。もともと、定期的に会社近くのスポーツセンターを借りて、全社に声をかけてフットサルやアルティメット、バトミントンをしていたの。その打ち上げのたびに「運動会やりたいよね」って話していて。じゃあ、会社としてではなく自分たちで声をかけてやっちゃおうかなって思っていたら、林さんが「会社の周年イベントでやったらいいんじゃない?」って言ってくれて。会社のお金でやっていいんですか!って喜んでやることにしました。

杉本 児嶋(いずみ)さんとの探究プロジェクトから「ものさすビール」も生まれました。

大久保 今、徳島・神山町のKAMIYAMA BEERに相談して、フードハブ・プロジェクトのパン屋さん「かまパン」から出る廃棄パンを使ったビールを試作してもらっています。かまパンの製造責任者・笹川(大輔)さんが「もともとビールはパンからアルコール発酵させたという説もある。パンでつくるビールなら一緒にやれるし、モノサスと仕事してみたいと思っていた」って言ってくれました。これからも、ビール造りのお手伝いと飲む係は続けます(笑)。

ビールを持ち笑顔で笑う女性二人組 ビール大好きな大久保さんと児嶋さん
ビールが醸造される様子を見る四人組
ビールを持って笑う4人組 ものさすビールプロジェクトにもどんどん人を巻き込んでいきました

杉本 去年から、大久保さん肝入りのプロジェクト「結ぶ会」もはじまりましたね。

大久保 コロナ禍以降、リモートワークが増えていくなかで、けっこう他社さんも従業員を集めて飲み会を開いたりしていたから、そういうことをやりたいと思って。人事プロジェクトで「社内マッチングみたいなことをしたい」って眞鍋さんに提案したの。メンバーが興味もっていることをアンケートして、その結果は私だけが持っていて。ふだんあまり話さないけど意外な共通項のある人同士が話す機会をつくるみたいなね。でもそのときは見送りになっちゃったの。

ところが去年、眞鍋さんとの面談で「大久保さん、好きなこと、やりたいことを言ってみなよ」って聞かれたから、「社内マッチングやりたいって言ってるじゃないですか!」って(笑)。それで、年6回分の予算を確保してスタートしました。

杉本 どんなマッチングが起きてるんですか?

大久保 1回目は社食研のとみりこ(富田理子)がデザイナーの滝田(玲子)さんのものさすサイトの記事を読んで話してみたいと言ってたので、ふたりをくっつけるのに3人で。2回目は、K-POP。みんなにも聞いてやっとK-POP好きを3人みつけて新大久保に飲み&ショッピングに行き、その後に新たにメンバーも増えて第2回目も開催しました。それぞれの推し動画を見て、テイクアウトの韓国料理を食べて、すっごい盛り上がったね。

その次は、子育てママ・パパの会。これも10人くらい集まってめっちゃ盛り上がった。自己紹介と「子育てでみんなに聞きたいこと」を言うだけでも2時間くらいかかった。そのときにつくったチャットグループで、絵本のおさがりを譲る話が始まったりして、いいねーと思っています。できるだけ、まんべんなくみんなを呼べるように考えながらやってるかな。

ビールを持って笑う4人組 夜の社食「居酒屋ものさす」にて

中嶋 会社によっては、従業員をつなぐことで業績を上げるとか目的があったりすると思うんですけど。大久保さんはなんでそこまでするんだろう?って思いながら聞いていました。

大久保 仕事するときにしゃべりやすいといいなと思ったかな。チームでやる仕事って、よく話さないとなかなか進まないじゃない? 共通のテーマがあれば、その後も話すことがあるだろうし、仕事がスムーズに進むようになるといいなと思っているのが一番かな。しゃべったことない同士でやるよりは、仕事がしやすくなればいいなと思ってる。

ひとことで言えば「楽しかった!」

杉本 今までの職歴も含めて振り返ると、モノサスはどんな会社だったと思っていますか?

大久保 ひとことで言うと楽しかった。私は新卒でリクルートに入社して7年半くらい勤めたんだけど、すっごい楽しかったの。人も楽しいし、自由だし、権限をもって責任をもってやることも多かったし最高だったから「これを超える会社ってないだろうな」と思っていたの。でも、気づいたらモノサスではリクルートの倍近く働いていて。それがすべてを物語ってるかな。

モノサスは、やりたいと思ったことをやらせてくれる。運動会も、ビールも結ぶ会も、採用やフォローアップ面談も、やりたいものだから忙しくても楽しかった。それで、みんなが居心地よくいられるなら、なおさらうれしいなって感じだった。

山田 「やりたい」をどうやって見極めてるんですか?

大久保 頭じゃない、ここ、ここ(胸に手を置く)。頭でなんか考えないよ。だって、食べたいとか頭で考えないでしょ?「ケーキ食べたい」「ん、ラーメンだぞ」とかさ。

山田 あー、その感覚と一緒なんですか。

大久保 私は一緒だね。やりたいかどうかは、湧いて出てくるものかな。やっていいって決まったら、どうするかを考える。いかようにもなるもんね、とは思ってる。

中嶋 UL/BO制度がはじまってからの5〜6年で、会社としても大きく変化したと思います。その感じを大久保さんはどう見ていましたか。

みんなの中心で話をする女性 居酒屋ものさすにて。いつもみんなの真ん中に大久保さんがいました

大久保 それまでは林さんの鶴の一声で動くことも多かったけど、林さんがみんなに委ねはじめて。結果的に、みんなが自立した気がするし、それぞれが責任をもってやりたいことをやっている感じがするかな。採用面接のとき「モノサスはいろんな事業があるけど、何に重きを置いて、どういう会社を目指しているんですか」ってよく聞かれるんだけど、そういうのはモノサスにはないじゃん。はじめは「決まってなくていいのかな」と思っていたけど、ここ2〜3年は「それでいいんだな」って腑に落ちてるかな。

会社がどうなっていくのかは、やっていくなかで出てくる。それはひとつじゃないし、みんなそれぞれなのかもしれないし、会社としてっていうのはないよって話を、いつも柵山さんは面接者にされていて、そうだよねって感じがしてる。

杉本 大久保さんにとって今のモノサスは?

大久保 家族? うん、それくらい居心地がいいっていうか、家に帰るのと同じ感じ。だからつづけられたんだろうな、忙しくても。

杉本 大久保さんとモノサスの関わりは今後も続いていく感じですか?

大久保 手が足りないのであればお手伝いするし、好きだからね。お願いしてくれるなら、それはもうありがたくお手伝いさせてもらいます。でもやり過ぎないようには注意します...(笑)運動会は、やりたいと思っていたことをやらせてくれたんだもん。これからも絶対に参加するよ!


職場での良い人間関係は、つながりの資本(社会関係資本)になって、その関係が連鎖して外部との関係性にも良い影響を与えるそうです(京都大学 こころの未来研究センターの内田由紀子先生に聞きました)。

大久保さんがしていたのは、まさにモノサスという場のつながりの資本をつくることだったんじゃないかなと思います。それは、目に見えるものではないし、直接お金を生み出すわけでもないけど、関わる人の人生にすごく大事なものを残していたんじゃないかな。

12年間、ほんとうにおつかれさまでした。
会社は卒業したけれど、飲み会には卒業はありませんよね。
またおいしいビールを飲みましょう!

この投稿を書いた人

杉本 恭子

杉本 恭子(すぎもと きょうこ)ライター

フリーランスのライター。2016年秋より「雛形」にて、神山に移り住んだ女性たちにインタビューをする「かみやまの娘たち」を連載中。

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