Thu.
14
Jan,2016
中庭 佳子
投稿者:中庭 佳子
(何でも屋担当)

2016年01月14日

編集 × デザイン
「視覚のストーリーテラー」足りえるか?

デザインの目のつけどころ

中庭 佳子
投稿者:中庭 佳子(何でも屋担当)

デザイン部の中庭です。このサイトの編集長もやっています。
自分が今回この「デザインの目のつけどころ」というコーナーを投稿するとことなり、さて、何を書くか、といろいろ悩みましたが、自分の今の状況もかんがみて、「デザインと編集の関係」という視点で書かせてもらうことにしました。ただし単純に「編集」というと、とても大きな領域に及びますが、今回は「自社のウェブマガジンの編集」という範囲で語らせていただきます。
 

なぜWebデザイナーが
「編集長」をやっているの?

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ものさすサイトの手書きワイヤー

そもそもなぜ、いちWebデザイナーである私が、自社サイトの「編集長」という職務に就いているのか、社内の人でさえ、疑問に思っている人がいるかもしれません。自分に編集者としての職歴があるわけでもなく、プロの編集の方からしたら、そんな簡単ではないぞ!と一喝されそうですが、なんでもDIYする社風のおかげで、こうしていきなり編集長という立場を経験させてもらうことになりました。

とはいえ文章を司る職務、いったいどれほど文章に慣れ親しんでいるのか、ということになりますが、これも特別他の人より多いというわけではないと思います。
昔は本が好きで(一応国文学を学んでいました)、書店で勤めたり、自分でもよく日記を書いたり、ネットに慣れ親しんでからはブログを書いたりしていました。けれどもいろいろあってIT業界に入ってからは、まとめて文章を書くという行為から久しく離れていました。月に読む本の冊数も昔に比べたらずっと減り、お気に入りの作家の作品や、好きな著者のメルマガを購読するレベル。
現在はWebデザイナーという職につき、言葉よりも視覚の方を主に考える仕事をしながら、仕事上で文章を書くのはメールくらい、という生活を送っていました。そんな自分に、編集長としての特別な素養がある、とは言えないかもしれません。


編集とデザインの密な関係


モノサスサイトのサイズ設計図。

ただ、ひとつ思うことは、編集ってデザインの作業にすごく似ているなぁと。
どこが?というと、交通整理するようなところが似ています。

Webデザインでは、文字や写真などの要素をレイアウトする作業があります。大切なメッセージは大きく扱い、絵と言葉の効果的なバランスを考えます。これとそれは、同じ種類のものだからまとめて、他は別の要素だから異なる表現でみせよう、などと、情報の交通整理をしている感覚です。
一方、文章を扱う編集にも、やはり「言葉のレイアウト」があります。グラフィックデザインが要素の粗密をつけながら画面を構成するように、言葉の編集でも大切な部分は前後の文脈を膨らませたり、そうでもない部分はあっさり流すなど、文章の粗密を作っています。また、全部を言い切らず、あえて余韻を楽しんだり、遠回しな言い方で読者に想像させるすき間を作ることは、デザインでの「余白」作りに似ています。

つまり、言葉の編集はデザインの行為と重なる部分があるのです。
編集は言葉のデザイン行為とも言えますし、逆にこれまで自分がやってきたWebデザインの仕事は、編集の仕事でもあった、と言えるかもしれません。


編集者は視覚のストーリーテラー?!


エイゼンシュテイン『戦艦ポチョムキン』(1925年、ロシア)より。エイゼンシュテインは視点の異なる複数のカットを組み合わせることで新しい意味をつくる「モンタージュ」という映像編集技術を確立した。映画監督もまた、編集者だ!

また、紙の業界で言えばエディトリアルデザイナーも担う領域だと思いますが、編集者も言葉と絵の関係も考えねばなりません。この文章にはどんな写真が必要なのか、ディレクションをしたり、ものさすサイトの規模では編集部で撮影もします。つまり視覚的な情報伝達にも気を配らなければなりません。

少し話は反れますが、桑沢デザイン研究所でグラフィックデザインを学んでいる頃、エディトリアルの授業で一冊の本を作ったことがあります。それは、ポール・オースターの『幽霊たち』という小説を自分で再編集して作った『幽霊採集図鑑』という本です。その時は、ストーリーの中の各シーンを抽象的なピクトグラムのような図に見立てる層と、写真に見立てる層に分け、切り取った言葉とあわせて再編集しました。その時の、“ストーリーをイメージに置き換える”という行為がとても面白く、深く心に残っています。この体験が、現在の「言葉と絵」について考える仕事へと続いているのかな、と、ふと思いました。


『幽霊採集図鑑』の見開きページたち。登場人物のブラックとホワイトの関係性が混沌とし始め、やがてブラックが「空虚」な存在へと変わってゆく様子を、視覚的には「消失点」としてとらえたページネーション。


『幽霊採集図鑑』の表紙。

現在のUS版WIREDの編集長、スコット・ダディッチがデザイン畑出身の方とのことですが※1、彼のインタビューに「WIRED編集者はクリエイティブな限り視覚のストーリーテラーです」※2という言葉があります。

まだ編集長としては日が浅いですが、「デザイン」と「編集」、ふたつを横断しながら、「視覚のストーリーテラー」足りうるよう、努めたいと思っています。


 ※1 http://wired.jp/2015/03/10/vol15-editors-letter/ 「デザインは新しい時代の「哲学」なのか〜Vol.15「デザイン」特集に寄せて」WIRED Webサイトより 2016.1.14現在
※2 https://www.trnk-nyc.com/stories/scott-dadich-wired/ 「AT WORK WITH SCOTT DADICH, EDITOR IN CHIEF OF WIRED」TRANK 
Webサイトより 2016.1.14現在

この投稿を書いた人

中庭 佳子

中庭 佳子(なかにわ けいこ)何でも屋担当

こどもが生まれてからは早寝早起き3度の食事づくりの日々。好きだったランニングと地ビールが遠のき早3年目…。家をDIYで改装し、週末ギャラリー運営中。仕事はやってきたものをいろいろやってます(主にWeb制作)。

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