Fri.
30
Jun,2017
林 隆宏
投稿者:林 隆宏
(相談役)

2017年06月30日

Open Marketingのはじめかた
Step.1 顧客を信じる -その3-

Open Marketing

林 隆宏
投稿者:林 隆宏(相談役)

みなさん、こんにちは。モノサス代表の林です。

前々回からOpen Marketingに取り組むためのStep.1として
「顧客を信じる」ということをお伝えしています。

前回は

  • 経営者・マーケッターはやりたい商売をやりたい相手とやると、儲からない」という誤解をしている。
  • 実際には、固定客がもたらした利益を新規顧客を集めることにつぎこんでしまい、利益が出ていない。
  • また、顧客がなぜ他社ではなく自社から買ってくれたのか、そして固定客がなぜ自社の商品・サービスを買い続けてくれているかの理由をきちんと答えることのできる経営者・マーケッターはほとんどいない

という内容でした。

今回は、顧客が自社で商品・サービスを買ってくれている理由を
理解するためにはどのようにすればよいのかについてお伝えしたいと思います。
 

顧客の購買動機を知るためにすべきこと

顧客が自社の商品・サービスをなぜ買ったのか、買い続けているのかの理由を
調べる一番の方法は、当たり前のようですが、顧客自身に聞いてみるのが最も有効です。
Vol.4でも顧客インタビューについては少し触れましたが、今回はその
具体的な実施方法についてもお話ししたいと思います。

一般的に顧客調査の手法として、アンケート調査、グループインタビュー、
エスノグラフィーなど様々なものがあります。
いずれも有効な手段ですし、今回ご紹介する方法が、それらより優れているという
意図でご紹介するわけではありません。
自社のありかたを見つめ直すうえで、顧客のインタビューをもとに
自社の魅力と、自社を大切に思ってくださっているお客様の存在を知ることが
大切なのです。
 

なぜ、顧客に聞かなければならないか。

具体的な方法の話に入るまえにまず理解しておかなければならないのは、
自社の本質的な長所を理解するために、なぜ顧客にインタビューを
しなければならないのかということです。

詳細に語ると長くなりますので、簡単にご説明すると、
企業が、商品であれ、サービスであれ、代金と引き換えに提供をするには
必ずどこかで人の思考や手が入ります。

そうやってサービスの提供を繰り返すうちに、企業にはナレッジが形成され、
それがメンバーの中に共有されていきます。
ナレッジにはいくつかの種類があるのですが、大きくわけると
言語化可能なものと、言語化が難しいものとに分かれます。
(実際にはより複雑に分類されます)
このふたつのうち、企業は、言語化可能なものを頼りに
マーケティングやマネジメントを行っているケースが多く見られます。

言語化可能なものとは、例えば下記のようなものがあります。

サービスリスト

マーケティング面で活用されるナレッジで代表的なものは、サービスリストです。
企業として商品を販売した際にどのような付加サービス、保証サービスなどをあわせて提供するのかといったことがあらかじめ決められたリストです。
また、サービスであれば、サービスの中で具体的にどのようなことが行われるのか、そしてそれぞれがどのように提供されるのかがあらかじめ決められたリストです。
これらは顧客にも周知されるケースが多いですし、社内でもこれをもとにオペレーションが構築されるケースが多く見られます。 

マニュアル

マネジメント面で活用されるナレッジで代表的なものは、マニュアルです。
業務を行ううえで、なにをどのように行うのかの手順や、基準を詳細に記述したものです。
顧客に周知されることはありませんが、社内ではほぼすべてのメンバーに共有され、商品・サービスの提供に大きく影響を与えます。

まず言語化可能なものをご紹介したのには理由があります。
それは、多くの企業が自社の差別化のポイントや、強みの源泉は
これら言語化可能なものにあると思っているからです。
普段から社内で重要なことであると思って周知徹底し、
きちんと実行できているかどうかに常に気を配っているからです。

しかし、多くの企業にとって言語化可能なものも
重要ではあるのですが、独自固有の強みの源泉にはなかなかなり得ません。
なぜならば、言語化可能ということは、定義がはっきりしていますので、
他社が真似することができるからです。
それを強みとし続けられるのは、圧倒的な資本力を以って
市場を席巻し続けることができる一部の企業だけです。

それではもう一方の言語化が難しいものはというと、
いろいろありますが、代表的なものとしては
ノウハウやカルチャーといったものがあげられます。

これらは言語化が全くできないわけではないのですが、
一言で言い表すことが難しく、かつ、企業が自ら語ることが
難しいものなのです。

例えばカルチャーでは、我々日本人が日本の文化の魅力について
うまく言い表すことは難しいですが、日本に来た外国人は
我々日本人が意識していない日本の魅力を大いに語ってくれます。

つまり、言語化が難しいとは、本人たちにとって難しい面が強く、
外から見ている人たちにとっては、本人たちよりは容易で、
かつ示唆に富んだ意見をくれます。

企業についても同様で、企業自らが自分たちの魅力、強み、個性を
言語化することは難しい面があるのです。

少し端折った説明になってしまいましたが、
なぜ自社の魅力を知るために顧客に聞く必要があるのかという点については
おわかりいただけたのではないでしょうか。
 

自社の商品・サービスが好きな顧客にその理由を聞く

いよいよ顧客へのインタビューについてです。

顧客にインタビューをするにあたって気をつけなければならないことが
いくつかありますが、重要なのは

  • 誰にインタビューをするか
  • 何をインタビューするか
  • インタビューしたものをどう分析するか

の3点です。

1.誰にインタビューをするか

冒頭のほうでも述べましたが、顧客調査の手法として顧客インタビューはよく
用いられますし、様々なインタビュー手法が先人たちによって確立されてきています。
また、絶対的にどの手法が正しいというものはなく、調査の目的によって
どの手法が有効かは異なります。

その前提があったうえで、私たちがインタビュイーに適していると考えているのは
「自社の商品・サービスが好きで、頻度高く、継続して利用している顧客」です。

この際に気をつけなければならないのは、必ずしも利用金額が重要ではないことです。
もちろん、頻度も継続性も高く、利用金額も高ければ理想的ですが、
利用金額が大きいだけでは、自社に対してロイヤリティーが高いかどうかはわかりません。
たまたま一度の買い物で大きな金額を支出しただけかもしれないからです。
さきほど外国人旅行者の話をしたので、そのまま例えると、
日本に一度だけ来ていわゆる「爆買い」をしたからといって日本のファンとは
限りません。
それよりも、一回あたりの支出金額は少なくても、何度も、頻度高く日本を訪れる
旅行者の方がはるかに日本のことを好きでしょうし、理解しているはずです。

なにより今、我々が知りたいのは、自社の魅力であって、
たくさんお金を使わせる方法ではない点を忘れてはいけません。

なお、頻度高く、継続している顧客がたくさんいた場合、
その中で誰に話を聞くかは、個別に見ていく必要があります。
そこからのインタビュイーの抽出の詳細な方法はいくつかありますが、
ポイントだけお伝えすると、
自社がこれからも継続的におつきあいしていきたい顧客を抽出することです。
たくさんいる候補の中から、可能な範囲でこの条件を満たすインタビュイーを
ピックアップします。

また、インタビュイーは8人〜10人で十分です。

2.何をインタビューするか

何をインタビューするかは商品やサービスの特性によって大きく異なります。
ただし、共通して重要なのは、顧客の初回購買動機継続購買動機を聞きだすことです。

購買頻度が高い、または購入単価が低いなどの理由から
初回購買動機が薄い商品・サービスもありますが、
できる限り初回購買動機については、詳細に聞き出すことが望ましいです。

なぜなら初回購買動機には、顧客が何に悩み、自社の商品・サービスにお金を払うことで
どのような苦痛から逃れたかったのか、そしてそれをどのように決断したのかという
自社の魅力をあぶりだすうえで欠かせない情報が隠されているからです。

また、インタビューを実施するうえで重要なのは、
簡単に言語化されたことを鵜呑みにしないことです。

なぜならばインタビューの最終的な目的は、自分たちでは言語化が難しい
自社の魅力を顧客によって語ってもらうことですので、
顧客にとっても言語化することは容易なことではありません。

インタビュイーによっては回答をあらかじめ用意してきたかのように
流暢に話し始める方がいます。
しかし、それをすぐにインタビューの成果とせず、
じっくりと何度も質問を繰り返し、顧客の心の奥にある
本音を引き出すことが重要です。

中でも初回購買動機をインタビューする際に、重視しているポイントがあります。
それは「何が最終的に購買への背中を押したか」という点です。

思い切って買い物をすることを「清水の舞台から飛び降りる」という言い方を
しますが、これは実に言いえて妙な言い回しだと思います。

飛び降りるという表現にあるように、買い物をするという決断をする際、
人は「怖い」という感情を持つことがあります。
感情ですからつまり、理屈ではないのです。
理屈は言語化できますが、感情は言語化が難しいものです。

しかし、「怖い」という感情を乗り越えて、飛び降りる決断をさせた
「背中を押したもの」を特定することは、
自分たちが言語化できなかった自社の魅力をあぶり出すための
大きなヒントになります。

3.インタビューしたものをどう分析するか

8人〜10人の自社の商品・サービスを継続購入してくれている顧客への
インタビューを実施すると、様々な発見があります。

これらの分析のしかたは商品・サービスの特性によって
様々ですが、その点は次回また詳しく解説したいと思います。

今月も最後までお読みいただきありがとうございます。

この投稿を書いた人

林 隆宏

林 隆宏(はやし たかひろ)相談役

長野在住で、東京、徳島、ときどきタイを行き来する生活。好きなことは木と歌と料理と宴会。木を使ったDIYが好きすぎて、ついには木材の販売事業を立ち上げてしまった。

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