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Aug,2022
中嶋 希実
投稿者:中嶋 希実

2022年08月01日

ドーナツシェフ本間健介、400kmの冒険へ。

仕事と暮らし・代々木

中嶋 希実
投稿者:中嶋 希実

代々木オフィスの一角にFarmMart & Friendsがオープンしてまもなく5ヶ月。

食材がにぎやかに並ぶ店舗の奥、ガラス越しに見える厨房で毎日ドーナツを揚げているのが、ドーナツシェフの本間くんです。

代々木に通うメンバーならば、夕方、ヘトヘトになってソファーに溶けている姿を目にしたことがあるかもしれません。

そんな本間くんが8月いっぱい、休みをとってアメリカでロングトレイルに挑戦することに。

ロングトレイルって聞いたことはあるけれど、実際どんなことをしてくるの?ということで、出発直前、話を聞かせてもらうことにしました。


ー ふだんは奥の厨房にいるから、モノサスのメンバーでもまだ会ったことのない人も多いよね。改めて、モノサスとの出会いから教えてもらえたら。

はい。しばらく海外で過ごしていて、2020年に日本に帰ってきました。友だちから「銀座ソニーパークにGEN GEN AN 幻っていうお店を出すんだけど、調理できる人がいないから」って誘われたんです。

その地下3階には、かまパン&フレンズがあったんですよね。期間限定だったお店が終わった後、代々木にお店を出すって誘ってもらってきました。

ー 銀座ではコラボメニューをつくったりしてたよね。ずっと食の仕事をしてきたの?

アルバイト程度ですが、ずっとやってはいました。学校を卒業してからはバイクの整備士の仕事をしてて。辞めようかなって思ってきたとき、雑誌のSpectatorでロングトレイル特集をやってたんです。これ、面白そうだって思って。

それで、2015年にアメリカの西海岸側をメキシコ国境からカナダの国境までを歩くPacific Crest Trail(PCT)という山岳路を歩きました。4260kmを5ヶ月かけて踏破した感じです。

ー 5ヶ月、4000km歩くって、すごすぎてよくわかんないな。

なにも知らないまま現地に行ってしまって。ちゃんとしたハイカーは食料や水抜きのバックパックの重量が6kgとかだったんですけど、僕は23kgあって。3日歩いて、これはダメだ!って、町に降りたとき、郵便局から先の町まで送りました。


2015年カナダとアメリカの国境にて

ー 知識も経験もないロングトレイル、不安はなかったの?

不安しかなかったですよね。だけどまあ、なんとかなるっしょって。

英語もほぼできなかったんです。それが悔しくて、次の年にフィジーの英語学校で勉強して。その後行ったのがスペインとフランスの国境の山だったので、英語、ぜんぜん使わなかったんですけどね。

英語が活きたのは2017年。2015年と同じ道を歩きに行ったときです。

ー 同じ場所なんだ。

でも、やっぱり違うんですよ。メキシコの国境って砂漠みたいな感じなんですけど、2017年は雨が多くて。スーパーブルーミングって言って、サボテンにめっちゃ花が咲いてたんです。めちゃめちゃきれいでした。

標高が高いところは雪が多くて、そこで進むのを諦めました。経験も装備も十分じゃないそのときの僕には、それ以上進むのは無理だったんです。奇しくも、今年のスタート地点は、その山を降りた場所なんですよ。


Queenstownのアイコン的な山、Cecil peakのハイキングにて。クロスカントリーハイクの楽しさに目覚めた山

ー 今年も同じルートに挑戦するんだね。

はい。Southern Sierra High RouteとSierra High Routeを進みます。半分はトレイル、半分は道なき道をルートファインディングをしながらクロスカントリー、3週間で400km歩いてこようと思ってます。

ー トレイルって一応、人が歩けるように道があるんだよね。ルートファインディングっていうのは、それを外れて道を開拓していくっていうこと?

はい。とはいえ人気のある場所には小石が積んであったりして、人の痕跡があるんですけどね。自分の体力とスキル、道具、食料や地形を考えながら進むのが楽しんですよ。

ー トレッキングもしない私は、想像するだけで不安になるな。今回、目標にしてることとかあるの?

死なずに帰ってくることですね。もちろん無茶はしないつもりですけど、PLBっていう、GPSでレスキューを呼べる装置を契約しました。一応、保険としてですけどね。

ソロで行く人ってあんまりいなくて。やっぱり何人かのチームを組んで、いろんな意見を出し合いながら歩いたほうが安全なんですよ。

ー それでも本間くんはソロで行くんだね。

歩くスピードって人によって違って、それが100km、200kmになるとだいぶ差が出てくるんですよね。ついていくのがしんどかったり、イライラしてしまったり。あと1人でいたほうが、その場での出会いも広がるなって思ってて。

ー 旅人同士話すこともあるんだ。

変な人いっぱいいますよ。砂漠で会ったドクっていう、インド系アメリカ人の退役軍人のおじさんは、日に焼けてだらだらになっちゃった僕の腕を見て「白いんげん豆の缶詰の汁に浸せ」って教えてくれました。試してみて、効果があったのかはよくわかんなかったんですけどね。

あと、FarmMartで販売したハイカーズジンのイラストを書いてくれたイワシくんも、2015年のときに出会ってて。イラストはまったく別の経由での話だったので、偶然の再会になったんですけどね。彼もけっこう変わってます。変な人、無限にいるんですよ。

ハイカーの視点で開発したHIKER'S GIN
撮影 Direction:河原康宏 @yasuhiro_0926 Movie & Photo :遠藤慶太郎 @keitaro_endo

1人で歩いてると、みんなすごく良くしてくれるんです。見知らぬアジア人のきったないハイカーを泊めてくれたり、ごはんおごってくれたり。申し訳なくなるくらいギブしてもらってきました。

ー それも醍醐味のひとつなんだね。けっこうな頻度で挑戦している印象なんだけど、どういうところが楽しいの?

なんて言えばいいですかね。考えなきゃいけないのは、その日に寝るキャンプサイトと次の水場、残りの食料。余計なことは考えなくていいんですよ。

きれいな景色を見て、町でおいしいブリュワリーに寄るとか、途中で仲間ができるとか。リアルなRPGやってるみたいな感覚ですね。

ー 冒険してる感じがいいんだね。

大人になると怪我したり、変なもの食って腹痛くなったり、地図間違えて違うところ行っちゃうってことないじゃないですか。そういうのって、すごく新鮮なんですよね。

僕、心は永遠の15歳なんで。そういうのが好きなんです。


2017年から3年間過ごしたニュージーランド。家の裏山ハイキング

でも最近山に登ってないんで、本当になにが楽しいのかって言われるとよくわからなくて。行ったら思い出すはずなので、また聞いてください。今回は道具もカメラも新調したし。報告会でも開いたら聞いてくれる人いますかね。

ー それいいね、ぜひやりましょう。準備は順調に進んでる?

フィジカル的なことで言えば、毎日FarmMartに来るために自転車乗ってるくらいですかね。山に行くのが3年ぶりなんで、体力が落ちていないことを祈るって感じです。

ー 日本で山登って準備するとか、しないんだ。

行ってないです。1回も。日本の山って人が多くて、ちょっと苦手なんですよね。

ー そうなんだ。無事に帰ってくるのを待ってます。これまで、危ないと思ったことってないの?

いやいや、けっこうありますよ。モハベ砂漠っていうところを歩いているときには、48kmの山道で水場が1箇所もないってところがあって。なにを血迷ったのか、水を1滴も持たず、500mlのビール缶1本で入っちゃったことがあって。それはマジでミスりました。

あると思ってた途中の水場も枯れてて。砂漠なんでね。今日のうちに水がないとやばいと思って、残りの距離を全速力で走りました。


サンティアゴ巡礼の道の終着点Santiago de compostelaにて

ー そんなことがあってでも、行きたいと思うんだもんね。ちなみにそこまで好きなことがありつつ、普段は食の仕事をやっているって、どういう感じなんだろう。

僕、学生のころから自分でカフェをやりたいって思ってるんです。

オーストラリアにDeus Ex Machinaっていうブランドがあるんですけど。サーフィンやモーターサイクル、カフェとか、クラシックな娯楽文化のハブになっている場所なんです。画一化された流行を目指すんじゃなくて、人生の楽しみ方は人それぞれでいいんだってコンセプトがあって。

僕も音楽、アート、自然、車、バイク、食みたいな文化を楽しむ人たちのハブになるような場所を、いつかつくりたいんですよ。

いろいろやっていて、ちょっと遠回りしてる感じではありますけど。諦める気はないんで、やり続けます。


このインタビューの1週間後には、アメリカへと渡っていった本間くん。

山での話をすごく楽しそうにしてくれる姿を見ながら、「最近、冒険してないな」と、ちょっぴりうずくものがありました。

帰ってきて、また話を聞かせてもらうのが楽しみです。

気をつけて。そして、楽しんで!

この投稿を書いた人

中嶋 希実

中嶋 希実(なかじま きみ)

1985年生まれ、茨城・龍ケ崎在住、自営業。「日本仕事百貨」の取材でモノサスと出会い、今はものさすサイトなどいくつかのことに会社のちょっと外から関わっています。

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