プロジェクト熊本の温泉街で、パン屋から地域の課題解決やコミュニティづくりを。地域の関係性からつくるパン屋をプロデュース

フード

株式会社 黒川温泉農園

熊本でも有数の観光地、黒川温泉。「Au Pan & Coffee」は、黒川温泉に建つ8棟のレストランを中心とした"地域の食のハブ"「Au Kurokawa」の旗艦店。地域の食材を使用したパン、焙煎から手がけるコーヒーや、ナチュラルワインなどの物販を営む19坪の小さなお店です。黒川温泉周辺の地域で育てられた素材をおいしく食べる「いつものパン」と、パンに合う「いつものコーヒー」を用意しています。

モノサスとフードハブ・プロジェクトでは、徳島県神山町で地域の方々と関わりながら続けてきたパン屋を運営してきた経験を活かし、黒川温泉郷でパン屋にできることをともに考え、空間づくりやデザインのディレクションからスタッフの採用・育成、店舗オペレーション構築まで、包括的に立ち上げの支援を行いました。

Project Info

Period
2024.1-2024.9
Client
株式会社 黒川温泉農園
Service
プロデュース/立ち上げ支援

monosus Team

プロデュース:眞鍋太一、製造ディレクション:笹川大輔(フードハブ・プロジェクト)、製造・販売:澤入美芳(フードハブ・プロジェクト)、進行管理:中嶋希実、事業アドバイス:荒井茂太、白桃薫(フードハブ・プロジェクト)、製造アドバイス:細井恵子(フードハブ・プロジェクト)、運営アドバイス:種本寛子


店内の風景


 


レセプションで人がお店に集まっている様子




パンを選ぶ人たち


issue

日本各地の温泉地では、コロナ禍が明け、インバウンド客数が2019年を超える見通しになるなどにぎわいが戻ってきています。しかしながら旅館をはじめとする宿泊施設では、人手不足や不規則な勤務体制が大きな課題となっています。

30軒の旅館が集まる熊本の観光地、黒川温泉郷でも直面している課題は同じ。そこで始まったのが、8棟のレストランを中心としたAu Kurokawaです。温泉街のなかにレストランを増やし、旅館宿泊者の夕食や朝食を提供、"泊食分離"を促すことが、旅館特有の課題の解消につながっていくはず。さまざまな業態の飲食店を増やすことで、お客様が温泉街で食事をする楽しみと選択肢を生み出すことができるはず。その旗艦店としてパン屋をつくりたい、と相談をいただき、モノサスとフードハブ・プロジェクトが関わっていくことになりました。

フードハブ・プロジェクトで運営する徳島・神山町のかまパン&ストアでは、地域にあるもので地域の人が食べるパンをつくり、パンにできることを考え続けてきました。これまで実践してきたことを黒川温泉郷に持っていくと、どんなことができるのか。フードハブ・プロジェクトにとっても、パン屋をプロデュースするという初めての挑戦になりました。

plan&output

プロジェクトは運営や設計、デザインなど、一緒にお店をつくっていく関係者に、フードハブ・プロジェクトが活動を続けてきた神山の風景を見てもらうことから始まりました。地域の食材でパンをつくる現場を見ながら話したり、実際に使っている機材を確認してもらいながら、ともにつくっていくお店のイメージを共有していきました。

メニューやレシピをゼロからつくると、金銭面でもスケジュール面から見ても現実的ではありませんでした。そこで今回は、かまパン&ストアで積み上げてきたパンのつくり方やオペレーションを新店舗に反映し、そこから少しずつ黒川温泉のお店らしい形に変わっていけるようなお店を目指すことになりました。

土のついた人参

神山で話し合ったあとは、黒川温泉に場所を移してリサーチを実施。チーズをつくっている牧場、不耕起で農業に取り組む方、地元の杉を扱う製材所、陶芸家など、さまざまな人に出会いました。

事業計画、店舗の内装設計、機材の選定、紙袋のデザインなどさまざまなことを並行して進めるなかで大きなポイントとなったのは、採用したメンバーの神山研修です。経験者や職人を集めることもできたかもしれませんが、それでは人材不足に悩む地域の課題に向き合うことにはなりません。集まってくれたのは、パンづくりの経験がほとんどないメンバー。新しい店舗で作業ができるようになるまで、2週間から1ヶ月間神山に滞在し、かまパン&ストアでパンのつくり方などをじっくり共有していきました。

パンのつくり方を学ぶだけなく、ここで時間をかけてコミュニケーションの機会を増やすことが、いいチームづくりにもつながり、黒川温泉の新店舗に移ってからの立ち上がりをスムーズに行うことができました。さらに、かまパン&ストアの考え方をじっくりと共有できたことで、将来的に、自立した店舗運営がより早くできるようになることを期待しています。

かまパンでパンづくりを教えているところ

 

畑の様子を見に行っているところ


神山での研修。パンをつくるだけでなく、農地を見たり、農業チームのメンバーと話をする機会もつくりました。

result

テストベイクとプレオープンを経て、Au Pan & Coffeeは2024年9月30日にグランドオープンを迎えることができました。旅行者だけでなく、旅館で働いている方や地元の方が訪れてくれる様子を、店舗のメンバーが嬉しそうに出迎えています。

店頭に並んだのは、黒川温泉郷のみなさんに馴染みのあるジャージー牛乳を使った食パンやドーナツ、地元の和菓子工房と一緒にあんこを炊いたあんぱん、季節の野菜を練り込んだローフなど、熊本の方々との関係性からできていくパン。お店で働くことになったメンバーとの出会いで、おいしいドリップコーヒーとカフェオレも飲めるお店になりました。

お店づくりはここからがスタート。ここでパンをつくることで、地域の人たちとどんな関係をつないでいけるのか。今後はフードハブ・プロジェクトのメンバーが運営の支援を続けていきます。

<運営> 
黒川商事、RETEN
<プロデュース>
フードハブ・プロジェクト、モノサス
<設計> 
giraffe Associates
<店舗内設計>
ASTER
<デザイン>
OVAL
<コンセプト設計>
福永あずさ
<撮影>
マエダモトツグ.
<エクステリアデザイン>
錦戸主税
<アドバイス>
伊藤総研
<照明デザイン、製作>
穴井木材工場
<陶器ロゴ製作>
北川麦彦

オーブンから出したばかりの食パン

かまパン&ストアでつくっている「超やわ食パン」の黒川温泉バージョン。小麦粉と牛乳が変わることで、違うおいしさと出会えました。

コーヒーを注いでカフェオレをつくる


自分たちで焙煎したパンに合うコーヒーと、ジャージー牛乳でつくるカフェオレ。

紙袋のデザインは白地に草原を手書きで表現


デザインや設計は熊本のクリエイターのみなさんと協働しています。

陶器製のロゴマークと棚に並ぶマグカップ


店舗に入って最初に目に入るロゴマークは、地元で活動している北川麦彦さんに陶器でつくってもらいました。