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Jul,2023
杉本 恭子
投稿者:杉本 恭子
(ライター)

2023年07月18日

フェアであること、合理的であることを大事にする。モノサスタイランド取締役・宮川拓也

仕事と暮らし・タイ

杉本 恭子
投稿者:杉本 恭子(ライター)

こんにちは。京都で暮らしているライターの杉本です。
祇園祭が近づいて、ちょっとソワソワする日々を過ごしています。

モノサスは、徳島・神山町、山口・周防大島町にサテライトオフィスがあるのに加えて、なんとタイ・バンコクに関連会社・モノサスタイランド(以下、モノタイ)があります。この規模で、こんなに拠点がある会社ってあまりない気がします。そんなところもモノサスっぽい。

先日、ものさすサイト事務局のミーティングで、「この頃、モノタイ関連の記事が少ないね」と話したのをきっかけに、モノタイ設立にも関わった宮川拓也さんに、オンラインでインタビュー。最近の宮川さんとモノタイのようすを聞かせていただきました。

そういえば、来年はモノタイ設立10周年?

杉本 モノタイの設立日は2014年11月、来年は10周年の節目になりますね。今のメンバー構成はどんな感じですか?
 
宮川 あんまり、僕の中で10周年とかまったく重要じゃなくて、気にしていないのですが……そうなりますかね?

これまでだいたい、総勢20名前後で推移してきました。モノタイの役員は4名いて、現地マネジメントは僕ひとり。日本人メンバーは5名で、ディレクターの町山百合香さん、日向由紀さん、田中優香さん(日本出向中)、畑峯豪さん(タイ出向中)とチェッカー兼コーダーの田中夏海さん。タイ人メンバーは13名いて、内訳はディレクターのベスくん、コーダー9名、通訳2名、総務のヌーさんですね。

杉本 宮川さんが最初にタイに行ったのは出張だったんですか?


第一印象は「都会なんだな」と思ったという宮川さんが撮影した、バンコク中心部にあるショッピングモール、CentralWorld前の広場の夜景。


一緒にタイに出張した伊藤さんと(右)

宮川 そもそもは、前の年にモノサスの役員3名がタイの日系企業に視察に行ったのがきっかけでした。当時、コーディングファクトリー(以下CF)の課題だった採用難を解決するために、現地法人を設立するという流れが生まれたんです。どんな環境なのかを体感するために、今度はCFの部長だった伊藤洋介さんと僕が3泊ぐらいで現地視察に行きました。その後に、僕が3ヶ月くらい現地の協力会社さんに出向したのち、いよいよ法人を立ち上げる話が進んで。「もし、このままタイに残ってくれるなら役員を任せたい」と言われてモノタイの役員を引き受けました。


CFからタイ法人設立、華麗なるジョブチェンジの背景は?

杉本 タイでの会社設立はどんなふうに進めたんですか。

宮川 やり方自体は社長の林さんが事前に調べられていて、僕は林さんと一緒にタイ政府の奨励事業として認可を得るためにプレゼンに行ったりしましたね。タイ投資委員会(BOI)の認可を受けないと、100%日本外資で立ち上げられず、日本人1名に対してタイ人4名を採用しないといけないなどの制約があったんです。一度戻されたりしてヒヤヒヤしましたが、なんとか認可は降りて、その後は協力会社さんに登記などのサポートをしてもらいながら、立ち上げスタッフの採用を進めました。

杉本 CFのお仕事とタイで現地法人をつくるお仕事って、延長線上にはないというか、まったく違いますよね。どうしてやってみようと思ったんですか?


設立当時のオフィスで納品前にみんなで残業していたとき。「差し入れに高いアイスを買ってねぎらったりしていました」と宮川さん。


宮川さんがかなりDIYしたふたつめのオフィス。みんなでランチできる大きなダイニングテーブルがありました。

宮川 そうですねえ。困難はあったと思うけれど、当時はワクワクのほうが大きかったですね。当時の僕はモノサスに入社して3年ほど経っていて、Webのフロントエンドやコーディングを突き詰めるよりも、業務を変えたい気持ちがありました。

あらためて、自分の特性や強みを考えると、人の見極めや状況判断は得意な方かなと思っていて。入社1年目に、大規模案件の途中で修正監督に急遽抜擢されたり、他にも大規模案件の量産監督を任せてもらってアルバイトの面接もしました。それまで採用やチームづくりの経験があったわけではないですが、スッとできた感覚があったんですよね。モノタイの組織づくりも、面白さを感じながらやってこれたと思います。


モノタイには、リモートワークがマッチした

杉本 最近のモノタイのようすを教えてください。

宮川 2019年に今のオフィスに引っ越しました。IT企業がたくさん入居していて、コワーキングスペースやイベントスペースもあるので、他社とのコラボも考えていたんです。ところが、半年ちょっとでコロナ禍がはじまっちゃって。モノタイは2020年3月下旬の段階からリモートワークを実施して、現在も継続しています。

杉本 リモートワークになってから社内の変化はありましたか?

宮川 モノタイには、リモートワークがマッチしちゃったんですね。業務を進める上で特に支障がなく、生産性も落ちてない。1〜2時間かけて通勤していたメンバーは出社のための無駄な時間がなくなり、子育て中のメンバーは子どもと過ごす時間をつくれるのでむしろメリットが大きいんです。日々のコミュニケーションはオンラインになりましたが、仕事のやりとり以外の話をする機会もつくっています。タイ人メンバーは毎週「コーダーパーティ」というMTGをしているし、日本人メンバーは毎日30分くらい夕礼で話しています。何年も仲良く一緒に働いてきたメンバーなのでリモートワークでも関係性を続けられているんだなと思います。なおかつ、新しいメンバーもリモートでの研修や関係づくりができています。


毎年恒例の、納会の日のプレゼント交換。毎年「500B以上」のルールでみんな思い思いのプレゼントを用意する。集まったプレゼントの前で記念撮影。

モノサスとしてはなるべく出社する方向にしたい空気を感じているけれど、僕としては合理性も重視したいので、少なくとも毎日全員出社は目指さなくてもいいんじゃないかと。ただ、集まる機会がなくなって、以前用意したけれど休止している制度もあります。今後は、今の状況にマッチしたルールを試しながら、出社してみんなが集まる機会もつくり、合理的に従業員と会社がwin-winでいられるように出来たらと考えています。


フェアで合理的な制度をつくる

杉本 モノサスの文化や制度のなかで、モノタイでも大事にしているものはありますか。

宮川 モノサスには、アットホームでみんなが自分ごととして会社を良くしようという価値観があると思います。モノサスの文化や制度も、タイ人が体現できる範囲でいいところ取りしています。

杉本 モノタイは社員旅行やメンバーの誕生会など、メンバーが交流するイベントや制度があるそうですね。


制度をつくる取り組みをしていたときは、グループに分かれてアイデアを出しあった。


ふたつめのオフィスでした忘年会のときの記念撮影。この年は企画メンバーがみんなで楽しめるゲームを色々考えたそう。


サムイ島社員旅行(2017)。夕暮れ時にホテル前のビーチをみんなで歩いてディナーに向かうひととき。

宮川 コロナ禍でできなくなった制度は沢山あるんですけど、リモートワークなりにメンバーの関係を維持できるように、一泊旅行や日帰り旅行などのアクティビティや交流の機会は大事にしたいし、そこさえ大事にしていけば大丈夫なんじゃないかと考えています。

タイ5年目ぐらいまで、モノタイの全体会議のなかで、毎月指名された人がA4用紙1〜2枚の情報を用意して、自分の生い立ちから自己紹介を全員で2周くらいやったこともあります。人って自分のことを知ってくれている人を信頼するというので、自己紹介でお互いを理解しあったのは、後から思うとモノタイの空気づくりに影響したんじゃないかと思います。

杉本 組織づくりでも、採用面接をコーダーさんたちと一緒にしたり、一度つくった制度もうまくいかなかったら話し合って変えていこうとか、メンバーの目線でものごとを考えていらっしゃるのかなと思います。

宮川 みんなに主体性を持ってもらいたいというのはありますけど、僕自身気づかされることは沢山ありますし、現場にしかわからないことは多いので、どんな立場からでもより良い意見は採用されるべきかなと思います。会社の規模も小さいし、ほとんどの決裁権は僕がもっています。場合によっては合理的な特例をつくったりしながら柔軟に対応できるんですね。

実は僕、けっこう自分の中に譲れない基準があって、理不尽に感じたルールや、自分がいやなことは人にも強いたくないんですよね。会社と従業員それぞれに都合があるなかで、ちゃんとフェアでありたい。「従業員のために」と見せかけて会社の都合を通すようなしくみにしたくないという正義感みたいなものもあったりして。自分の善悪やフェアかどうかの感覚にもとづいて判断しています。


教育よりも採用が大事だと思っている

杉本 宮川さんはメンバーを採用するとき、何を重視しているんですか。

宮川 採用面接で話を聞くなかで、その人の内面や人となりをイメージして、ある程度能力があったとしても、どこかイヤな雰囲気や傲慢さ、他責傾向などネガティブな要素が気になった場合は見送りますかね。ときどき、能力やポテンシャルの面で見誤ったなという採用もあるけど、人間性のところは高い確率で見られていると思います。以前、林さんが「トンくん(コーダーのリーダー)が「『タイ人がこんなに真面目に働く会社はないですよ』と言っていたよ」とうれしそうに教えてくれたこともありましたね。

杉本 宮川さんは「合理性があるかどうか」「win-winの関係を築けるかどうか」を大事にしているんですね。

宮川 そうかもしれないですね。それぞれがどう思っているか気にする感じもあったりしながら、合理的にみんながwin-winになる決断をしたいとか、自分で変数が多い感じにしちゃうんですけど。なかなかそれが見つからないと決められないこともあります。

僕は子どもの頃から落ち着いていて、周りのようすを伺うタイプというか。学校でも、活発かおとなしいかでいうと真ん中あたりで、クラスの誰とでも普通に話せて誰の気持ちもわかるみたいなタイプだったりして、それが人との関わり方にも現れているのかなと思います。兄弟も、年子の弟たちとは7歳離れている長男なので、弟たちにやりたいことをやらせてあげたかったり、尊重してあげたかったりしたんですね。ちょっと離れたところから見守ってる感じの弟たちとの関わり方も、自分のマネジメントの仕方にちょっと似ているところがあるかもしれません。

杉本 人を育てるときにも、弟さんたちとの関わり方が影響しているのでしょうか。

宮川 「育てる」ってなんかおこがましいというか。僕のなかでは「育てた」という感覚はまったくなくて。実際、誰も育ててはないです。育ってもらうためのきっかけや気づきみたいなものは与えられたこともあるかなと思うけど、僕のなかの感覚では人が成長するうえで、教育でどうこうできることをそんなに信じていなくて。自分自身による気づきをもとにした訓練に期待していて、それができる人をうまく採用したいと考えています。

立ち上げ当初は、タイ人メンバーのコードレビューをして一緒にやっていましたが、現場を離れてからは、現場のディレクターとエンジニア同士でフィードバックしあって、日々プロジェクトに取り組んでもらっています。ナレッジ共有などの機会は、毎週のリーダーズミーティングで自分たちで必要なことを決めてもらっている。僕がいたら出てこない意見もあると思うで、気を使わずに自分たちで話してほしいんですよね。


インタビューが終わったとき、同席していた中嶋希実さんが「育ててないって言うんだなあと思って聞いていました」と感想を言っていたのですが、私も同じ気持ちでした。リーダーってぐいぐい人を引っ張るだけが強さではないんだな、というか。宮川さんは、穏やかで強いリーダーシップで、包み込むようにモノタイを育ててきたんじゃないかな。また、モノタイのメンバーの話を聞く機会をつくりたいと思います。

この投稿を書いた人

杉本 恭子

杉本 恭子(すぎもと きょうこ)ライター

フリーランスのライター。2016年秋より「雛形」にて、神山に移り住んだ女性たちにインタビューをする「かみやまの娘たち」を連載中。

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