2018年10月

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ものさす編集部
投稿者:ものさす編集部

2018年10月16日

実りの秋の「ものさすシネマ」

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ものさす編集部
投稿者:ものさす編集部

日が暮れるのも早くなり、街行く人もすっかり秋の装い。
栗に柿にさつまいも、実り豊かな季節の到来です。

今回は3人のメンバーに、秋におすすめの映画を教えてもらいました。

夫婦二人、40年の歳月をかけてコツコツ育ててきた、人生の実りあふれるドキュメンタリーに、スパイスの香りが画面から漂ってきそうなギリシャ系移民のお話。はたまた、ちょっとレトロなSFファンタジーの3本です。

今回紹介する映画

  • 『人生フルーツ』伏原健之監督
  • 『タッチ・オブ・スパイス』タソス・ブルメティス監督
  • 『ナビゲイター』ランダル・クレイザー監督

人生をかけてきた、とっておきのこと
『人生フルーツ』

紹介者
澤田 悠奈 ディレクター


『人生フルーツ』伏原健之監督 2016年公開(公式サイト

90歳の建築家・津端修一さんと、その87歳の妻・秀子さん、
超高齢夫婦の暮らしと歴史を綴ったとてもカラフルな印象のドキュメンタリー映画です。

40年かけて育てた風が抜ける雑木林。
鳥がおとずれるための水鉢。
家を建てた時から少しずつ育てた野菜70種・果実50種。
そして四季折々の草花が咲く。

「よくわかるためには、黄色がいいとおもったからね」と
誰かのために、敷地内のすべてに添えた、案内の小さい看板。
それはずべて手製で、ひとことずつ言葉が添えられている。

二人の暮らしの一つ一つは、こんな風にちょっとだけ豊かなことであふれている。

海苔を火であぶり、鉄瓶で白湯を沸かす。
障子もすべて手で張り替える。ついた餅には焼き印を押す。
毎日手紙を書き、友人に出しにいく。
尊敬する建築家にならった30畳一間の高い天井の平屋。
手の届かない高い場所にいくつも窓があるのに、毎日開け、そして閉める。

冒頭の映像だけで絶対的な眼福。
タイトルどおりの鮮やかできれいな人生がそこに現れています。

先月亡くなった樹木希林さんのナレーションで、
おまじないのような言葉が時折くり返される度に、少し泣きそうになります。

風が吹けば枯れ葉が落ちる 枯れ葉が落ちれば土が肥える
土が肥えれば果実が実る コツコツ ゆっくり

ひとしきり美しいものを見たと思う頃合いで、夫婦がこの暮らしを始めた頃のエピソードが入ってきます。それは、高度経済成長期の日本で修一さんが味わった大きな挫折。愛知県春日井市にある高蔵寺ニュータウン建設についてでした。

里山の地形を活かした計画を考えたけれど、その計画は時代に受け入れられず経済を優先したものができてしまったこと。望まず、豊かな山を削ってしまったことを静かに受け止め、そこに土地を買い、自分の力だけで里山をもう一度作り始めたこと。
その意志の現れとしての40年であり、この暮らしなのだろうと思うと、くり返し唱えられる「コツコツゆっくり」に途方もないものを感じます。

「若い人に、お金は残せないけれどね、良い土は残せると思うんです。」
夫婦2人の人生を越えて、残していきたいもの。「いつか実るもの」を希望として生活しているように見えても、その「いつか」は自分たちだけのものではないんだなと感じます。

呪文のような「コツコツゆっくり」を、津端さん夫婦は「時を貯める」と表現していました。そう表現され直すだけで、自分たちの人生を越えた長期の展望を持っているような、不思議な言葉に感じます。

人生をかけて実らせてゆきたいとっておきのことが見つかっているなら、コツコツゆっくり時を貯めて。静かに選択し、いつかの人生に実りの秋を!
疲れてしまって何もしたくない時は、この静かな力を借りたいと思って繰り返し見ています。

 

人生が深みを増すのはスパイスがあるから。
『タッチ・オブ・スパイス』 

紹介者
赤嶺 繭子 Webディレクター


タソス・ブルメティス監督『タッチ・オブ・スパイス』2005年公開(原題:A Touch of Spice)(Amazon)

「人生は料理と同じ。 深みを出すのは ひとつまみのスパイス。」
そんなキャッチコピーから始まるこの映画は、トルコのイスタンブール(旧:コンスタンチノープル)とギリシャを舞台に、主人公のファニスとスパイス商を営む祖父を中心に描いたギリシャ移民家族の物語だ。

題名の通りたくさんの種類のスパイスが登場するのだが、人生の比喩表現として多く使われている。

祖父がファニスにスパイスを教えるシーンでは

美食家(Gastronómos)の中に天文学者(Astronómos)が潜む。
コショウは辛くて熱い太陽。太陽はすべてを見る、だからすべての料理に。
地球は塩。塩がないと料理も人生も味気ない。

また、私がこの映画に惹きつけられるのは、祖父がファニスに語る一言一言がとても印象的だからだ。

ギリシャ移民が国外退去となるシーンでは

   

去り行くときは行先の話をするものだ 去る地ではなく

先にイスタンブールを去るファニスへ祖父が語るシーンでは

星を見て待て、同じ星を。空には見える星もあれば、見えない星もある。
いつも見えないものを語れ、人は見えないものにこそ興味を持つ。
料理もだ。塩やコショウが見えないとまずいか?違うだろ?それでも決め手は塩加減だ。

なかなかギリシャへ来ない祖父に対し、ファニスの父が語るシーンでは

あの人は来やしないさ。
あの街は美しすぎるんだ。

政治的背景の暗さを全く感じさせないほどユーモアたっぷりに仕立て上げられた映画。

第二次世界大戦後、イギリスの委任統治領であったキプロスをめぐり、トルコ系住民とギリシャ系住民がそれぞれの国に帰属しようという運動が起こり、民族浄化が始まる。いわゆるキプロス問題が原因。

通常映画では表現できない味と香りを感じることのできるこの映画を秋の夜長と食欲の秋にご覧いただくのはどうだろう。幾度となく出てくる肉団子にシナモンを混ぜ合わせた料理。この料理がもたらすものとは…ぜひ映画を観て堪能してほしい。

(補足)2005年アカデミー外国映画賞ギリシャ代表、2005年テッサロニキ国際映画祭10部門受賞他数々受賞

 

実は名作かもしれないノスタルジックSFファンタジー
『ナビゲイター』

紹介者
梶原 大督 チェッカー


ランダル・クレイザー監督 『ナビゲイター』(原題:Flight of the Navigator)1986年公開( Amazon

誰も挙げないであろう1本をと思い浮かんだのが『ナビゲイター』。
森の中で行方不明になり8年後に”そのままの姿”で戻ってきた少年と、いろいろな星から生命体の見本を採取し、分析を行ってから採取した時と同じ場所、同じ時間に戻すことを目的とした知能を持つUFOのSFファンタジー。地球で採取した少年を、UFOは『人間の体は脆弱で時間の逆行に耐えられない』と判断。そのまま帰した結果、地球では8年が経っていたというところから物語ははじまる。

観たのは公開当時ではなく社会人になってから。いつ観たかもストーリーもあまり思い出せないが、UFOの造形、エンディングで”証拠(地球に存在しない生命体)”が主人公のバッグから顔を出すシーンが印象に残っている。

UFO含め飛行物体の造形では、スター・ウォーズのミレニアム・ファルコンに次いで好きなデザイン(”一流”形体時)。当時最先端であろう映像美、謎めいているようで先が読める展開、コミカルなシーンとシリアスなシーンをはさみつつ、ほんのり心温まるエンディング。何も考えず気軽に観られる作品だ。
ディズニー作品にもかかわらず、どこにでも置いてるような作品ではないため、もし見つけたら何かの縁だと思って手に取るべきだろう。


最後の作品は、どこかほっこりしてしまう宇宙人のキャラクターが当時の子どもたちの心をつかんだに違いありません。コツコツと長い時間をかけて築いた夫婦の生活は、お金では得られない美しさであふれ、スパイスを楽しみ、味わうことはどんな困難な状況であっても人の気持ちを豊かにすることを教えてくれます。

秋の夜長、ゆっくりと映画鑑賞はいかがでしょうか。

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